研究課題/領域番号 |
15K17447
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
石井 智 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 研究員 (80704725)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 光熱変換 / 太陽光 / 太陽熱 / プラズモン共鳴 |
研究実績の概要 |
平成27年度はナノ粒子を用いて太陽光を吸収して熱に変える光熱変換について主に取り組くんだ。ナノ粒子は水等の液体に分散させることで、吸収した太陽熱を直接水に伝えることができ、伝熱ロスの小さい太陽熱利用システムができることが魅力である。 電磁場解析によってナノ粒子に光吸収応答特性を求め、太陽光の吸収が最大になる複素誘電率の条件を明らかにした。その結果を元に、その条件に当てはまる材料の探索を行った結果、窒化チタンナノ粒子が太陽光吸収を最大化する条件に良く合致することを明らかにした。窒化チタンは広帯域なプラズモン共鳴を示すために、太陽光の大部分の波長を吸収できるのである。計算では窒化チタンナノ粒子の太陽光吸収性能が炭素や金のナノ粒子より高いことも分かった。 実験では熱プラズマ法で作製した窒化チタンナノ粒子とアセチレン法によって作製された炭素ナノ粒子をそれぞれ水に分散させ、擬似太陽光照射時の水の蒸発と水温上昇を測定した。窒化チタンナノ粒子もしくは炭素ナノ粒子を入れることで、水の蒸発と水温上昇を速くすることができたが、前者のほうが後者より速かった。このことから、同一濃度においては窒化チタンナノ粒子のほうが太陽光吸収効率が高いことが分かり、計算結果を裏付ける実験結果となった。また窒化チタンナノ粒子の分散した水に約8倍に集光した擬似太陽光を照射すると、目視できるほどの水蒸気の発生を確認した。これはナノ粒子周辺の水のみ局所的に加熱され、そこから蒸発が始まったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
区分に示したとおり、研究はおおむね順調に進んでいると考えている。 ナノ粒子を用いた研究では、電磁場計算のコードを作成し、太陽光吸収効率の高いナノ粒子を探索する際の指針としている。 また計算結果を実証するために行った実験では、擬似太陽光照射による水の重量変化と水温上昇を計測するための自動測定コードを書き、実験を効率よく行えるようにした。実際に行った実験では、窒化チタンナノ粒子が分散した水では水の水温上昇と蒸発速度が純水に比べそれぞれ2倍及び4倍増加することを確認している。これらの結果から、窒化チタンの太陽光吸収性能が高いことを明らかにした。 本欄に概説したことを元に論文執筆を行い、筆頭著者の論文だけで既に3報を出版し、関連する招待講演も2件行った。また今年1月にはプレス発表を行い、8件以上のメディアに取り上げられるなど高い反響を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
電磁場計算によるナノ粒子の吸収特性の評価から、窒化チタン以外の材料でも太陽光吸収性能の高い材料があることが分かってきた。たとえば窒化タンタルなどの他の遷移金属窒化物である。加えて遷移金属炭化物もほぼ同様の太陽光吸収性能を持つことが予想されている。そのため、今年度は窒化チタン以外のナノ粒子でも、これまでと同様の実験を行い、太陽光吸収性能を評価していく。 可能性のあるナノ粒子をできる限り評価し、年度末には実際にどの材料からできたナノ粒子の太陽光吸収性能が最も高いか結論が出せるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
既設の装置や共有装置を使い、また購入済みの薬品・試料を使うことで、やりたいと思っていたことがほぼできてしまい、計画していた物品購入の必要がなくなった。また昨年度後半はたまっていた成果を論文にまとめるために研究時間の大半を使ったため、実験を行わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
新しいナノ粒子を試すために必要な薬品や材料費、自前で持つことで実験効率が上がる装置・設備の購入に当てたいと考えている。
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