研究実績の概要 |
半導体リソグラフィやソフトリソグラフィ技術を用いてガラス基板上に細胞親和性が異なる2種類の材料をパターニングしておくことで,それをテンプレートとして用いて生きた細胞をパターニングすることができる.本研究ではこの技術を脳神経系の回路素子である神経細胞の培養技術と組み合わせて,生きた神経回路の諸特性をボトムアップに調べるための新しい実験系を構築し,その回路機能を計測している. 本年度は特に,パターニングした培養神経回路の構造とダイナミクスとを結び付ける数理モデルに関する研究で成果が上がり,計算論的神経科学分野の国際誌に原著論文を発表することができた(H. Yamamoto et al., Frontiers in Computational Neuroscience 12, 17 (2018)).ここでは,生体神経回路を特徴づけるモジュール構造に注目して,数学的に単純な位相振動子ネットワークにおいて個々のモジュールの内部構造がネットワーク全体の同期性に及ぼす影響を系統的に解析した.その結果,複数のモジュールからなるネットワークにおいては,同期を促進する接続構造が孤立ネットワークの場合と異なることなどが明らかになった. モジュール構造型ネットワークにおける構造機能相関については,培養神経細胞を用いた実験でも研究が進み,国内外の学会にて成果を報告した.ここでは特に,ネットワークにおける素子の同期化と非同期化という一見矛盾したダイナミクスを両立するための構造基盤としてモジュール構造が有利であることを明らかにすることができ,現在,原著論文の投稿準備も進めている.
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