研究実績の概要 |
本研究の目的はピコワット(pW)の熱分解能を持つ高感度熱計測デバイスの開発である.本年度は,1. 前年度の成果である酸化バナジウム(VOx)による共振型熱センサのマイクロ流体チップへの組み込み,2. VOxサーミスタによる生体分子の熱計測を主に行った.
1. 共振型熱センサのマイクロ流体チップへの組み込み:検証した結果,通常の微細加工技術ではVOx振動子のマイクロ流体チップへの組み込みは非常に難しいことがわかった.そこで,高感度化に重要な高い共振周波数温度係数(TCRF)を得ることを軸に,シリコン(Si)薄膜による両もち梁型の共振型熱センサに着目した.両もち梁型のTCRFは熱応力による影響のため大きくなることが理論的にわかってた.実際にそれを作製してTCRFを評価したところ,-1900ppm/Kを得た(ただし,振動子のサイズによる).熱機械ノイズを基にした熱分解は79uK,1.90nWであった.この薄膜Si振動子をマイクロ流体チップへ組み込み,単一褐色脂肪細胞の熱計測に成功した.
2. VOxサーミスタによる生体分子の熱計測:作製したVOxサーミスタ熱計測デバイスの熱分解能を評価すると,0.3mK/√Hzであった.また,酵素反応発熱を介したグルコースとコレステロールの検知を行ったところ,ともに濃度に比例した出力信号を得,血液中のグルコース(5.0-10 mM)はもちろん,尿中のそれ(0.11-1.1 mM)を十分に検知できる能力を有することがわかった.なお,グルコース,コレステロールの濃度分解能は各々30,15uM/√Hzであった. 以上より,本年度は作製したデバイスの応用に注力し,単一細胞の発熱量や微量の生体分子濃度計測に成功した.
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