研究課題/領域番号 |
15K17451
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
川村 隆三 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (50534591)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノマイクロバイオシステム / モータータンパク質 / 微小管 / キネシン / 細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、モータータンパク質をネットワーク化して、多分子体特有のふるまいを明らかにすることである。生物は、階層構造で無数のモータータンパク質分子を協同的に作用させているが、人工系においてもこれらの分子を単純に架橋してネットワーク化するだけで運動機能を加算的に発現できることが近年示されている。本研究では、固体基板上に固定したキネシンでネットワーク状に架橋した微小管を駆動する系に、秩序構造を導入することで協同性の高い運動を発現する原理を探求している。また、構築した運動系に培養細胞を播種することで生体内の動的環境を模倣した機械刺激を与えて未知なる細胞の挙動を探索しようとしている。 秩序構造を導入によって協同的な運動を誘導する試みとして、外場からの光学的操作を行うことで微小管動態を空間的に制御する方法について検証した。基板上に固定化したキネシンに高強度のパルスレーザーを照射して不活化し、その照射パターンによって不活性化領域を形成したところ、基板固定化キネシンをレーザー照射で物理的に脱離させて基板を再生可能であることが明らかになった。この不活化領域をパターン形成した基板上では、微小管の運動方向が一部パターンに依存することが示されており、不活化領域のパターンが微小管の運動に与える効果を現在更に検証している。力学刺激を付与できる細胞用基板としての応用では、微小管-キネシンの再構築系と細胞培養系が共存する条件を探索し、培養細胞系への適用範囲を明らかにした。細胞の形態変化から力学刺激への応答性を検証したところ、細胞の突起が増加する傾向が見られている。細胞培養系への適用性と有用性が見出されたことから、細胞への力学刺激へ重点を置いて研究を展開する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微小管の協同的な運動発現を目的とした秩序構造の導入試みでは、「基質となるアデノシン三リン酸の活性をcaged-ATPを使用して光照射で制御する方法」と「高強度レーザーの照射によってキネシン不活化領域をパターン作成する方法」の2通りを検証した。前者はATPの拡散に依存して制御性が狭い範囲内に限定されることがわかった。一方でレーザー照射によってキネシンを不活化する試みでは、活性状態のキネシンをパターン配置できるだけでなく、物理的にキネシンが剥離していることが原子間力顕微鏡を用いた観察から確認されており、キネシンを再度固定化して再生できることが明らかになっている。微小管一本ずつの動態観察において、運動方向に一定の制御性も確認されている。ネットワーク化した微小管に協同的な運動発現を促すことが今後期待される。細胞への力学刺激を行う試みでは、まず運動タンパク質の再構築系と細胞培養系について共存条件を探索した。通常の細胞培養環境で運動タンパク質を駆動することは、特に鉄イオンの存在によって困難であるが、運動タンパク質を駆動する環境では細胞が生存可能であることを確認し、でシリカ微粒子の場合と同様に細胞は運動基板上駆動されることを見出した。この力学刺激に暴露されたマウスメラノーマ細胞について、運動基板からの力学刺激で細胞が形態を変化させうることがわかっている。
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今後の研究の推進方策 |
力学刺激に対する細胞の応答が確認されたことから「新規の力学刺激ツール」としての有用性が期待できるようになった。この為、細胞系に運動基板を適用する研究を計画よりも広げて展開する。細胞に対して有意な力学刺激を付与する事を重要な基準の一つとして、微小管ネットワークの協同的な運動発現・制御に取り組む。高強度レーザー照射によるキネシン不活化領域のパターニングに加えて、従来の創傷治癒アッセイ系に置き換わるような系となることを期待してシリコーンゴムをマスクとした細胞播種領域のパターニング技術を導入する。細胞が集団的挙動示す系に対しても、力学刺激が与える影響を検証できるような運動基板作製法の確立を目指す。また、局所的な運動基板の制御、あるいは細胞の制御を可能にすることで、細胞培養系への研究展開をさらに広げる。この目的に合わせて既にマイクロインジェクターを導入しており、刺激の印加方法に自由度が加わることで、未知の細胞応答を見出す可能性が高まると期待される。力学刺激法の多様化を進める一方で、細胞の動態解析についても着手し細胞応答の効果的な検証に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
構築した系が細胞培養系へ適用可能であることが判明した為、研究の展開を当初の予定よりも細胞を対象とした内容に重きを置くことに変更した。これに伴い購入物品をマイクロインジェクターの導入に充て為、差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究では、細胞の動態解析が必要になる。効率的に作業を進める為に、先の差額を解析装置の購入に充てて研究を推進する計画としている。
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