研究実績の概要 |
本研究では、モータータンパク質をネットワーク化して、多分子体特有のふるまいを明らかにすることを目的としていた。これまで、微小管ネットワークとキネシンの運動界面を構築する系について、協同性の高い運動発現の原理探求と、細胞に力学刺激を与える力学環境としての応用に取り組んできた。昨年度の原理検証実験では、運動界面と培養細胞の共存化に成功し、細胞の形態による応答挙動を発見した。細胞もまた多数のモータータンパク質を協同的に作用させる天然の多分子体であり、その力学挙動理解は意義深い為、本年度は細胞への力学刺激付与と応答挙動の観察に向けた運動界面の構築へと重点を移して研究を行った。 運動界面に、高転移性のがん細胞(マウスメラノーマ, B16-F10)を播種すると、接着後に突起を伸長した形態が観察されていた現象について、定量解析を進めた。細胞形状をアスペクト比で評価することで、力学刺激存在下で細長い細胞の割合が増加することが確認できた。また定量解析を進める中で、細胞接着過程で力学刺激を付与する手法では、細胞の接着性が不十分で被検細胞数確保が困難であることが判明した。これに対し、接着因子(フィブロネクチン)を基板に共修飾することで細胞の接着効率を改善することに成功した。また、この接着因子共存下の力学刺激付与環境では、B16-F10細胞内の局所にアクチンの凝集体が形成される現象を見出しており、細胞挙動の新たな知見を得た可能性がある。 運動界面構築について、ミリメートルスケールの巨視的な2次元パターンを構築する取り組みでは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のスタンプマスクを用いることで、接着細胞領域中に5ミリメートル角の運動界面領域を作製した。接着状態の細胞が存在する同一基板上で、運動界面を駆動し力学刺激を付与することに成功しており、創傷治癒モデルへの応用が期待される。
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