研究課題/領域番号 |
15K17453
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山根 大輔 東京工業大学, 精密工学研究所, 助教 (70634096)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 金 / 金合金 / ナノ結晶 / 電解金めっき / パルス金めっき / 加速度 / MEMS / カンチレバー |
研究実績の概要 |
具体的内容:当初計画に示した(1)ナノ結晶化によるAu/Au合金の高強度・高密度化の基礎検討,(2)Au加速度検出デバイスの基礎検討について,それぞれ以下を実施した。 (1)について,電解金めっきで作製したAu積層構造の角柱,および,パルス電解金めっきで作製したAu角柱について降伏強度を測定し,両者とも純金の公称値より約3~4倍も高い降伏強度が得られた。来年度は各角柱サンプルの金粒径と機械強度の理論的な考察も進める予定である。本研究成果はH27年度に国際学会や国内学会で発表しており,国際原著論文も受理された。 (2)に関して,AuカンチレバーとAu加速度検出デバイスを電解金めっきで作製し,デバイスの構造安定性と加速度検出性能を評価した。Auカンチレバーについてレーザ顕微鏡観察を用いて形状安定評価を行った結果,長さ・幅・厚みを調整することで形状安定性を向上できることを実験的に示した。また,有限要素法を用いた形状シミュレーション結果と実験結果の整合性も確認した。Au加速度検出デバイス評価では,ノイズ性能を実験的に評価し,従来のSi加速度センサよりも低い機械ノイズ性能を実証した。さらに振動試験機を用いてデバイスに加速度を印加し,1mG(G:重力加速度)以下の加速度も静電容量変化で検出可能であることを示した。耐衝撃試験では,実際に20Gの加速度を印加した後でもデバイスが機械的故障なく動作することを確認した。本研究成果はH27年度に国際学会や国内学会で発表しており,国際原著論文も受理された。 意義・重要性:本研究成果より,電解金めっきで作製したAu構造体は純金構造体よりも高い機械強度を有することが分かった。さらに,デバイス寸法パラメータを制御することで,形状安定性も向上できることを示した。これにより,金構造体のMEMSデバイス応用,特に加速度検出デバイスへの適用について実現見通しを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定の本年度目標到達点は,(1)慣性分解能1μG以下(大気封止時)を有するAu加速度検出デバイスの実現見通しを得ること,そして,(2)ナノ結晶を利用したAu/Au合金の高強度化の実現見通しを得ることである。 目標(1)について,電解金めっきを用いて作製したAu加速度検出デバイスの機械雑音を50nG/Hz^1/2以下(大気封止時)まで低減した。これにより,Auを微小可動構造体に用いることで,慣性分解能1μG以下の実現見通しを得た。したがって,当初予定した目標到達点に達した。Au合金を用いなくても本年度の目標性能に到達したことは,当初予定より大幅に進展した結果である。デバイス構造の最適化による錘質量の増大や粘性係数の調整,さらにAu合金の検討は来年度以降の検討課題とする。 目標(2)に関しては,ナノ結晶化した金めっき構造体が純金構造体よりも高い降伏強度を有することを実験的に示した。当初研究計画では,通常の電解金めっきで用いる添加剤が結晶微細化と欠陥除去を困難にすると予想しており,パルス電解金めっきなどを代替プロセスとして検討していた。そのため本年度では,通常の電解めっきのみならず,パルス電解金めっきも検討した結果,パルス電解金めっきで作製した金構造体も純金より高い降伏強度を示した。以上の実験結果より,当初予定した目標到達点に達した。金のナノ結晶サイズと機械強度の関係についての理論解析は来年度以降の検討課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は,(1)Au加速度検出デバイス,そして(2)ナノ結晶化によるAu構造体の機械強度向上について以下に述べる。 (1)について,当初計画通り,今後は慣性分解能0.1μG以下(大気封止時)のAu加速度検出デバイスの実現見通しを得ることを目指す。デバイスは電解金めっきを用いて作製する。当初予定ではAu合金を利用することで錘密度20g/cm^3以上を目標値としていたが,これまでの研究成果により,Au単体でもデバイス機械雑音の大幅な低減が見込めることが分かった。したがって,錘密度については特に目標値を定めず,慣性分解能の目標値を達成するためにデバイス構造最適化を実施する。 (2)に関して,今後はナノ結晶の最適化を進めることで,当初予定の降伏強度1GPa以上の実現見通しを得ることを目指す。H27年度に引き続き,通常の電解金めっきとパルス電解金めっきを用いて目標達成を目指す。マイクロ機械構造の評価素子については,これまで用いた角柱サンプルやカンチレバーに加え,ブリッジ型なども利用することで,加速度検出デバイスに必要な機械特性評価を進める。また,降伏強度評価以外にも,ヤング率などの評価も行い,デバイス設計パラメータを実験的に求めることを目指す。ナノ結晶化の理論解析については,めっき金の粒径評価とともに構造体サイズ縮小から起こるサンプルサイズ効果も考慮して遂行する。構造体の寸法パラメータ調整による形状安定性についても,今後より多くの実験データを取得・解析し,デバイス設計の最適化に貢献する。当初予定ではAu単体とAu合金の評価を並行して行うことを検討していたが,Au加速度検出デバイスの性能が期待以上に向上しているため,Au単体の評価を優先して行うこととする。
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