本研究ではナノ磁性材料の磁気特性を3次元的に解析する実験手法としてのX線強磁性共鳴顕微鏡の開発を目的とした。当初の研究実施計画では本年度は各要素技術の検討と開発を完了し、これらを組み合わせて計測システムを構築する予定であった。検討すべき要素技術が予想外に多く目的達成には至らなかったが、以下の研究開発により将来的なX線強磁性共鳴顕微鏡の実現に向けた進展があった。 (1) X線強磁性共鳴顕微鏡では試料に数GHz程度の高周波磁場を印加して測定を行う。そこでその基礎技術として0.1 Hzから1 kHz程度の交流磁場を印加可能な電磁石システムを構築した。市販の電磁石と任意波形発生器を組み合わせることで簡易的な交流磁場印加システムを作製した。このシステムを磁気光学顕微鏡に組み込み、軟磁性材料の磁区構造の交流磁場下での挙動のリアルタイム観察に成功した。本研究開発で得られた知見はX線強磁性共鳴顕微鏡による高周波磁場かつnmスケールでの磁気特性計測に活用される。 (2) X線強磁性共鳴顕微鏡で得られるシグナルは微弱でシグナル対ノイズ比が低いことが予想されるため、高感度かつ高効率な測定が必要である。そこで機械学習の手法を適用して測定を効率化するための検討を行なった。まずX線強磁性共鳴スペクトルではなく、静的なX線磁気円二色性スペクトルへの適用について検討した。ガウス過程モデルを用いたスペクトル形状の予測により、測定時間を大幅に短縮しつつ、従来型の測定と同程度の精度で磁気モーメントを定量評価可能であることがわかった。
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