研究実績の概要 |
本研究は,光・応力・電場・磁場といった摂動下における分光法を駆使することで,(Al,In,Ga)N系半導体の光物性を解明することを目的としている. (Al,In,Ga)N 系半導体は2014年度ノーベル物理学賞の受賞対象となった青色発光ダイオードの材料であり,その混晶組成比を制御することで紫外~近赤外領域の発光デバイスも作製可能である.しかしながら,青色領域以外で高効率発光デバイスは実現されていないのが現状であり,この問題を解決するために(Al,In,Ga)N系半導体の光物性解明が望まれている.(Al,In,Ga)N系発光デバイスにおいては,量子閉じ込め効果・変形ポテンシャル効果・歪み誘起内部電界・ポテンシャル揺らぎ・非輻射再結合中心の空間分布といった様々な物理現象が光物性に関わっている.どの物理現象が支配的かを知ることが極めて重要であるが,複数の物理現象が競合するときに最も支配的な物理現象を抽出することは通常困難である.そこで,本研究では摂動下分光法における分光評価を提案している.摂動を加えることにより,個々の物理現象の強さを変化させることができる.それにより,最も支配的な物理現象を抽出し,(Al,In,Ga)N系発光デバイスの高効率発光に繋がる知見を獲得できると考えている. 今年度は本研究で提案する摂動下分光法を用いた評価を行うために,応力下分光測定系の拡張,電場下分光測定系の構築,および光照射下分光測定系の構築を行った.新しく開発した一軸性応力下吸収分光測定系を用いて,AlNと同じワイドギャップ半導体であるダイヤモンドを最初評価した.ダイヤモンドの励起子遷移の一軸性応力依存性を明瞭に観測し,新規分光測定系の構築に成功した.電場下および光照射下分光測定系の構築も行い,現在それぞれの測定系を用いて(Al,In,Ga)N系半導体の光物性評価を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は3つの摂動下分光測定系を新たに構築した.一軸性応力下吸収分光測定システム,極低温から室温における電場下分光測定システム,および摂動光照射下における顕微フォトルミネッセンス分光測定システムである. 測定システムが正しく動作することを確認するために,一軸性応力下吸収分光測定システムを用いてAlNと同じワイドギャップ半導体であるダイヤモンドの吸収分光測定を行った.そして,ダイヤモンドの励起子遷移の一軸性応力依存性を明瞭に観測することに成功した.ダイヤモンドの励起子遷移の応力依存性を明瞭に観測したのは本研究が初めてである.以上により準備が整ったので,来年度より(Al,In,Ga)N系半導体の評価を行う予定である. 次いで,極低温から室温にかけて電場を印加しながら分光測定が行える測定システムを構築した.本測定システムは立ち上がったばかりであるため,来年度より試験用発光ダイオードの電場下フォトルミネッセンス測定を行い発光効率の評価を行う予定である. 最後に,摂動光照射下における顕微フォトルミネッセンス分光測定システムを構築した. まず今年度新たに超広帯域白色光源(スーパーコンティニュアム白色光源)を導入した.この白色光源を分光器で単色化することにより,任意波長における摂動光を発生させ,既存の顕微フォトルミネッセンス装置に組み込んだ.本測定システムも立ち上げたばかりであり,来年度より(Al,In,Ga)N系半導体の光物性を評価する予定である. 以上により,今年度に応力・電場・光照射下における摂動下測定システムをした.磁場下分光測定システムについても構築を進めており,来年度より構築した分光測定システムを用いて(Al,In,Ga)N系半導体の光物性評価に直ちに取り組める状況となっている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究で提案している摂動下分光測定システムの構築が今年度でほぼ完了したため, 来年度から摂動下分光法を用いた(Al,In,Ga)N系半導体の光物性評価に移る. 具体的には,一軸性応力下におけるInGaNおよびAlGaN量子井戸の吸収分光測定, 極低温から室温にかけた電場下におけるAlGaN LEDの時間分解フォトルミネッセンス分光測定,磁場下におけるAlNホモエピタキシャル薄膜のフォトルミネッセンスおよび反射分光測定,および光照射下におけるInGaN量子井戸の顕微フォトルミネッセンス分光測定である. 本研究とは独立に申請者は近接場分光法による(Al,In,Ga)N系半導体の光物性評価も進めており,近接場フォトルミネッセンス法や近接場過渡レンズ法,そして近接場時間分解分光法等の実験結果からも(Al,In,Ga)N系半導体の光物性にアプローチする.また,AlNと同じワイドギャップ半導体であるダイヤモンドの光物性についても,本研究で構築した測定系を用いて評価する.
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