研究実績の概要 |
本研究は地球上に豊富に存在する酸化鉄や酸化カルシウムを使って太陽光の力だけで水を電気分解する光触媒材料を作製し、来るべき水素エネルギー社会で大量に必要となる水素を安価かつ大量に生成する事を最終目的としている。研究の1年目の成果では、これまで絶縁体と考えられていた酸化鉄に、高い導電性をもつ酸化インジウムを少量混ぜて混晶化させ、さらにドーパントとしてスズ(Sn)のイオンを少量添加する事で、その導電性を3-4桁向上させる事に成功した。しかしながら、水の電気分解のために必要な水素発生電位までバンドギャップを広げるためのゲストマテリアルの選定に難航した。当初予定していた酸化カルシウム薄膜が本研究で用いたミストCVD装置では作製が困難であり、別材料を再選定する必要が出てきた。そこで2年目の研究では、酸化鉄との親和性が高い酸化ガリウムをゲストマテリアルとして用い、高い結晶性をもつ(Ga,Fe)2O3の合成を行った。基板であるサファイアとの格子定数差を解消するために、(Ga,Fe)2O3と同じ格子定数をもつ(Ga,In)2O3混晶をバッファ層として用いて製膜を行った。すると原子レベルで整列し、また応力を殆ど受けていない、世界最高レベルのきれいな(Ga,Fe)2O3結晶の作製に成功した。一方で、Snをドープしたサンプルを、さらなる結晶性向上のために500℃以上の高温でアニールすると絶縁体になるという現象が確認された。この原因を探るためにESRと、その角度依存性を測定したところ、ドーパントであったSnが失活して、結晶欠陥や格子間に移動している可能性が示唆された。 これらの成果により本来絶縁体であるが豊富に存在する資源である、酸化鉄の導電性向上に成功し、さらなる伝導性向上の糸口をつかんだ。グリーン材料の代表である酸化鉄の、半導体としての応用可能性を示す重要な成果をもたらした。
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