研究課題/領域番号 |
15K17464
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高山 あかり 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70722338)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 輸送特性 / Rashba効果 / トポロジカル絶縁体 / 2次元超伝導 |
研究実績の概要 |
本研究では、4つの端子を独立に駆動させ試料の任意の位置で電気伝導測定が行える「独立駆動4探針電気伝導測定装置」を用いて、3次元トポロジカル絶縁体の輸送特性を測定した。実験に先立ち、極低温測定を行うため、4探針STM槽内に熱シールドとしてテフロンシートを設置した。Si(111)微傾斜面上に作成したトポロジカル絶縁体Bi2Se3およびBi2Te3薄膜を用いて正方4探針測定を行った結果、ステップ方向とテラス方向で電気伝導度が異なる様子を観測した。このことは、後方散乱が禁止されるトポロジカル絶縁体においても、ステップが抵抗として働くことを示唆している。また、この異方性は膜厚が薄いほど顕著であり、これは厚い膜ではバルクの伝導が増加したためと考えられる。以上の結果は、日本物理学会や日本表面科学会などで発表を行った。 一方、スピン偏極STM測定を行う準備段階として、磁性探針の作成を行った。磁性探針はカーボンナノチューブ探針に強磁性体CoFe薄膜を蒸着することで作成した。また、アプローチの際に探針と試料が衝突する可能性を減らし測定効率を高めるため、STM装置の探針アプローチ機構をより精密な慣性駆動式の粗動機構へと改良した。 さらに、上記研究テーマと並行して2次元超伝導物質の電気伝導測定を行った。巨大Rashba効果を示す(Tl,Pb)/Si(111)において極低温・強磁場化その場4端子電気伝導測定を行った結果、Tc=2.25Kの超伝導転移を観測した。また、2層グラフェンインターカレーション物質であるC6CaC6についても同様の実験を行った結果、Tc=4Kの超伝導転移を観測した。以上の結果は、国際的評価の高い専門学術誌に投稿・掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、当初の計画に従って、装置の高機能化および磁性探針の作成を行った。また、装置改良と並行して、トポロジカル絶縁体や2次元超伝導物質における電気伝導測定を行い、新規物性の観測とその起源解明を行った。以上の研究成果は論文や学会で発表した。本研究の進捗状況としては、当初に計画した研究内容に加え、新奇物性の解明なども達成したことから、計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で作成した磁性探針の性能評価を行う。また、STM装置への磁化システム導入を行う。探針の性能評価およびSTM装置の磁化システム調整には強磁性薄膜を用いて行う。また、Rashba系・トポロジカル物質ともに、磁性不純物や磁性探針の接近によって、スピン縮退点にギャップがあくなど、電子状態が変化することが知られているが、ギャップサイズと磁性の関係を定量的に議論した研究はない。本研究では、磁性探針の種類や磁化方向などを変化させた測定を行い、スピン偏極した電子状態と磁性の関係性について明らかにする。また、スピン偏極電流および量子スピンホール効果の計測にチャレンジし、スピン伝導特性を議論する。 さらに、本年度の研究成果をさらに発展させ、2次元超伝導系における輸送特性の研究も続けて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に水晶発振式膜厚計を購入する予定だったが、別装置での対応が可能だったため、購入を見送った。また、当初予定よりも液体ヘリウムや消耗品などの消費量を抑えて研究が行えたことに加え、次年度に海外での研究会に参加・その費用を捻出するため、予定金額よりも少ない支出となった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の繰越申請分は、韓国で開催されるIVC-20の参加登録費及びその旅費として使用する他、研究に必要な消耗品などの購入に充てる。消耗品の内訳として、液体ヘリウム、窒素やアルゴンなどの高純度希ガス、試料洗浄等に用いる有機溶媒、電子部品などを予定している。
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