ナノスケールの空隙を持つ金属電極(ナノギャップ電極)は、単分子の特性評価やDNAシークエンシングなど化学・生化学分野への応用研究が加速している。しかしながら、実環境下でのナノギャップ電極の実証的な気体反応メカニズムは解明されていない。 本研究では、「ナノギャップ電極において電子衝突による気体分子のイオン化とそれに伴う電流・構造変化を動的解析することでナノギャップの気体反応機構を解明する」を目的として、気体雰囲気下において原子レベルで動的観察ができる環境制御・透過電子顕微鏡(E-TEM)を用いて解析を行ってきた。昨年度までに、ナノギャップ電極のE-TEM内その場形成、ならびに気体導入に伴うナノギャップ電極の表面構造変化を見出した。 本年度は、この構造変化のメカニズムを解明するために、電子線量・印加電圧・ギャップ間隔・気体種・気体分圧を系統的に変えてE-TEMその場観察と電気測定を行い、その結果をまとめた。各種気体(酸素、窒素、水素)導入により、トンネル電流は真空中と比べて劇的に減少した。特に酸素中では、正極表面が乱れて、表面の金原子が負極へ飛翔する電界蒸発が観察された。低電圧印加条件では、ギャップ間に金原子で構成される動的な架橋構造が形成された。架橋構造のFFT解析により、この動的構造が金原子と酸素原子から構成されることを明らかとした。この新現象は、真空中、窒素中、水素中では起こらず、また電子線照射無しの条件でも生じることを確認した。電子線照射による電流値の変化は0.1 nA以下であり、本研究の測定結果には影響しない。 ギャップ間隔を狭めると電極は破断するが、これは電極先端に局所的に形成される強電界に依るものを考えられる。電子線ホログラフィ法によりナノスケールで電界分布を可視化することで、ナノギャップ電極に形成される電界は気体種に依らず、電極の形状変化に寄与することを確認した。
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