研究課題/領域番号 |
15K17475
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
白井 英登 分子科学研究所, 分子制御レーザー開発研究センター, 特任助教 (30726237)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超短光パルス / 非線形光学 / 超高速分光 |
研究実績の概要 |
遠赤外領域は分子間の結合エネルギー、中赤外領域は分子振動エネルギーと共鳴しており、分子の指紋領域と呼ばれている。特にタンパク質や脂質の分子振動及び分子間の結合エネルギーの相関を得るためには、遠赤外から中赤外領域までの吸収スペクトルを同時に計測することが有効である。気体を非線形媒質とした波長変換によって得た、2--20 μmまで広がったコヒーレントな超広帯域光パルスと、それを効率よく検出することが可能な気体を用いたチャープパルス上方変換を組み合わせ、液体を試料とした単一ショット吸収分光や化学反応ダイナミクスの計測を行う。液相の水やアルコール、水溶性のタンパク質などを試料とした分光を行い、水分子におけるOH 基の対称伸縮運動や変角運動及び分子間に働く水素結合のネットーワークなど、大きく振動数の異なる分子振動について同時に測定及び観測し、それらの相関関係を評価することで、分子論的な理解が期待できる。 通常、遠赤外から中赤外領域の光は水による吸収が大きいため、液相試料の吸収スペクトルを計測することは困難である。そこで、減衰全反射吸収(ATR)分光をシステムに導入した。 ATR は、プリズム面に臨界角度以上で光を入射し、全反射時にプリズム面をしみ出たエバネッセント波と試料とを相互作用させ、その結果、減少した減衰反射率を観測する手法である。本システムで得られた吸収スペクトルは市販のフーリエ赤外吸収分光によって得られたスペクトルと比較しても遜色のないものが得られた。 さらに、 ATR プリズム上に 2 つの異なる溶液を交互に急速に交換する装置を組み込んだシステムを構築し、アセトンと水がプリズム上で交換されることによって生じるスペクトルの時間変化を観測した。結果として、2--20 μmの広帯域なスペクトルの変化を時間分解能1 msで得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究とは別に、この超広帯域コヒーレント中赤外光源を使用した研究も行っており、研究を並行して行うことが困難であったため、進捗が若干遅れている。 しかし、2--20 μmの広帯域なスペクトルの変化を時間分解能1 msで得ることに成功しており、システム構築および動作確認はほぼ完成している。 また、液相のタンパク質における吸収分光を行うなめには、さらなる信号雑音比の向上が必要であり、少なくとも現在得られている信号よりも2桁以上のダイナミクスレンジが必要であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
さらなる信号雑音比向上のため、チャープパルス上方変換に用いる気体にXeを用いることを考えている。これまでの研究から、窒素よりもXeを用いることで、上方変換されたスペクトルの強度が100倍になることがわかっている。また、気体を用いるのではなく、固体表面における非線形光学効果を用いたチャープパルス上方変換を行う予定である。表面の非線形光学効果を用いることで位相整合による検出帯域の狭帯域化を防ぐことが出来る。気体と比較して相互作用長が短くなることが懸念されるが、気体よりも非線形光学定数が大きいため、信号雑音比の向上が見込める。現在、これまでに表面からの非線形光学効果が報告されている水晶基板を購入しており、実際にどれだけ信号雑音比が向上するかを調査中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請した研究とは別の実験を行うことによって、実験の進行がやや遅れていることに起因している。
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次年度使用額の使用計画 |
固体表面における非線形光学効果を利用することを考えているため、水晶基板を購入する。それとは別に、窒素や, Kr, SF6, Xeといった高価なガスを大量に使用する。その他の光学素子(ミラー、レンズ、フィルターなど)を購入する必要がある。 また、ビーム品質の良いチャープパルスを生成するために、透過型の回折格子を用いることを考えている。 また、国内外の学術講演への旅費および論文投稿に必要な費用にあてる予定である。
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