本研究では,殺菌や難分解性物質の分解に有効な水酸基ラジカル(OH)の大気圧非平衡プラズマによる高密度多量生成を目的としている.初年度に行った交流電圧を重畳したナノ秒パルス放電における帯電反転制御および活性種(OH,オゾン,窒素酸化物)生成量の評価法開発を基に,最終年度にオゾンおよび窒素酸化物の定量化を行うことで,帯電反転制御大気圧非平衡プラズマのラジカル生成への効果を実験的に検証し以下の知見を得た. 1.本研究の誘電体表面の帯電制御は,その帯電電荷を輸送するナノ秒パルス放電の電流を増加させる効果と,交流電圧駆動の誘電体バリア放電より多くの電荷を誘電体表面に輸送し帯電させる効果があることを明らかにした. 2.ナノ秒パルスを印加する交流高電圧波形における位相で制御できる上記の二つの帯電制御効果の発現が,結果として印加電源電圧・周波数の変化無しで実効的な放電電流・電力の制御を可能とすることを実証した. 3.空気中の窒素・酸素分子の解離と共に生じるオゾンおよび窒素酸化物の濃度が,上記二つの帯電制御効果と連動して起こることを実験的に初めて明らかにした. 本研究により,従来の大気圧非平衡プラズマの制御因子に加えて,ナノ秒パルスを印加する交流高電圧波形の位相という新たな大気圧非平衡プラズマの制御因子を導入することができた.これは活性種生成量を増加させる新たな手法であると共に,ナノ秒パルスを印加する位相制御だけで分子の解離とそれに伴うラジカル生成制御が実現できていると考えられ,活性種の濃度や組成を高速に制御し得る技術であることが分かった.本研究成果は国際学会の招待講演で報告し,現在論文誌に投稿中である. また,水の解離により生じるOHも生成量制御および生成量の増加が達成されていると考えられるが,同様に濃度が増加するオゾン等との反応のため,本研究で観測されたOH濃度変化は限定的であった.
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