研究課題/領域番号 |
15K17481
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊藤 智子 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (10724784)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大気圧プラズマ / 大気汚染防止・浄化 / イオン風 |
研究実績の概要 |
電気集塵装置内で生じている大気放電による大気エアロゾル微粒子のイオン化および輸送機構は、電子衝突、分子イオン生成等の様々な物理現象を含んでおり、それらの解明には、イオン風(加速されたイオン等の荷電粒子の流れによって誘起される空気の流れ)の発生初期の大気イオン化機構の理解が鍵を握ると考えられるが、大気中でどのようなイオンが、どのような時間・空間分布で発生するかなど、イオン風の発生初期のイオン化機構の詳細は、ほとんど理解されていない。そのため、本研究では、イオン風の風速等の計測実験、および電気流体力学(EHD)シミュレーションを行うことで、大気放電により生成された分子イオンが成長・発展していく過程を時間的かつ空間的に明らかにし、そうして得られた知見を基に、最終的に大気エアロゾルイオン化機構の解明することを本研究の目標としている。 27年度は、針電極と平板電極を組み合わせた小型のイオン風生成装置の製作し、電極構造および印加電圧・波形等の条件を変化させて、イオン風速、 風速分布および大気中のイオン密度測定等のイオン風の特性を把握するための計測を行った。その結果、高電圧を印加する針電極中央で局所的に強力なイオン風が生成されていること、本イオン風生成装置による高い集塵効率が明らかとなり、今後、イオン化機構の解明を行うための電気流体力学シミュレーションを行う上で有用なイオン風の特性データを取得することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当研究は、実験に関しては、申請当初の研究計画通り、おおむね良好に達成している。平成27年度は、針電極と平板電極を組み合わせた小型のイオン風発生装置を製作し、針電極に高電圧を印加する電極、平板電極を接地電極とすることで針電極先端から接地電極へと流れるイオン風生成装置を製作した。交流電源および直流電源を用い、様々な条件でイオン風を発生させ、各点毎のイオン風の風速、イオン密度およびイオン種等の計測を行い、印加電圧波形・電圧等の条件が、イオン風にどのような影響を与えるのか評価を行った。具体的には、以下に挙げるような計測を行い、イオン風発生装置の特性を明らかにした。 (1)イオン風の風速計測:熱線式風速計を用いて円筒電極周囲の各点毎の詳細なイオン風の計測を行い、3次元の風速分布データの取得を行なった。高電圧を印加する針電極では、局所的に風速1m/sを超える強力なイオン風が生成されていることが明らかとなった。 (2)イオン風発生装置を用いた微粒子捕集実験:イオン風発生装置および微粒子測定装置を密閉容器に入れて、密閉容器内微粒子の捕集効率を測定も行った。イオン風発生装置は高い集塵効率を達成することが明らかになった。 以上の結果は、イオン化機構の解明を行う電気流体力学シミュレーションを行う上で有用なデータであると考えられる。今後の論文投稿等の成果の発信は遅れているため、28年度は積極的に論文投稿や学会発表を行い、研究成果の発信を行う。
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今後の研究の推進方策 |
27年度に製作したイオン風生成装置を用いて、平行平板電極および針状電極に捕集される微粒子の形状、サイズおよび微粒子の付着分布の観測をSEM(走査型電子顕微鏡) を用いて行い、微粒子捕集装置の内部のどの位置で微粒子が最も多く捕集されるかについて評価を行い、微粒子の流れについて考察を行う。捕集した微粒子の成分分析には、EDX(エネルギー分散型X線分光法) 、イオンクロマトグラフィーおよびXPS(X線光電子分光法)の使用を検討している。以上に挙げた微粒子の分布および微粒子の成分分析結果と、前年度のイオン風の分析結果との比較を行うことで、大気放電によって生成された分子イオンが荷電を持ったエアロゾル微粒子へと成長していく過程について考察を行う。尚、SEMによる表面観察、およびイオンクロマトグラフィーによる微粒子の成分分析については、外部委託を予定している。また、屋外での大気エアロゾル粒子の捕集も検討していることから、持ち運び可能なイオン風発生装置の製作を行う。それに伴い電源装置の小型化およびイオン風生成装置の改造を行う。平成28年度は、国内外の学会発表および論文投稿を積極的に行い、平成27年度も含めた研究成果の発信を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画通り実験は進んでいるが、学会発表および論文投稿等の研究成果の発信が遅れているため、旅費およびその他の費用に次年度使用額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度も含めた研究成果の発信を行うため、国内外の学会への参加を予定しており、旅費として使用する。また、論文投稿および分析依頼に関しては、その他の費用として使用する。当初の研究計画通り、平成28年度は屋外でのダストの捕集を計画している。そのため小型の電源システムを組み込んだイオン風発生装置の制作の必要があり、それに伴い電源モジュールおよび電源ケーブル等の部品を物品費として購入予定である。
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