研究課題/領域番号 |
15K17482
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
市來 龍大 大分大学, 工学部, 助教 (00454439)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プラズマ窒化 / 浸窒焼入れ / 大気圧プラズマ / パルスアーク型プラズマジェット / 不動態被膜 / NHラジカル / 生体適合性 |
研究実績の概要 |
○基礎テーマ「大気圧プラズマ窒化の素過程解明」:大気圧プラズマジェット窒化法において,動作ガス中の水素が試料表面の酸化膜還元に寄与しているのかを調査するため,不動態被膜(自然酸化膜)を有するステンレス鋼SUS304の処理を遂行した.その結果,水素流量比1%の条件では明確な窒化層が形成されなかった.これは不動態被膜がバリアとなり窒素拡散が阻害されたためと考えられる.一方,水素流量比を3%に上昇させた場合,SUS304表面に硬化層が形成された.この硬化層の金属組織観察および元素分析により,当該の層は10%もの窒素を含んでいるS層(オーステナイト鋼特有の窒化層)であることが明らかとなった.すなわち,水素の増加により酸化膜が還元除去されることが分かった. ○応用テーマ2「レアメタルフリー鉄鋼の大気圧中高強度化技術」:本テーマでは,窒素の過剰供給により試料表面にボイド構造と窒化鉄が形成されることが問題となっていた.これを抑制すべく窒素供給量の制御を試みた.これまでの研究で,水素流量比を増加させるとNHラジカルの発光が減少することが分かっている.そこで水素流量比を増加させ浸窒焼入れを行った結果,実際に試料表面の窒素濃度を減少させることができ,その結果ボイド構造と窒化鉄の形成を抑制することに成功した. ○応用テーマ3「簡易表面処理によるチタンの生体適合性向上技術」:大気圧プラズマ窒化処理を医療用チタン合金に施し,最表面に形成されたTiN薄膜の硬組織適合性(骨との親和性)が向上する可能性を調査した.温度37℃のインキュベーター内で各試料を擬似体液に数十日間浸漬した結果,窒化処理後の試料表面に堆積したリン酸カルシウム(骨の成分)薄膜の成長速度が未処理のそれより明らかに速いことが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
○基礎テーマ:本テーマにおいては,窒素/水素混合ガスを用いた大気圧プラズマから鉄鋼への窒素供給が起こるメカニズムを解明することにある.我々は水素には①NHラジカルの生成,②酸素や酸化物の還元除去,の主に2つの役割があるのではないかと考えてきた.平成27年度は役割①について調査を行ったが,平成28年度は役割②の調査のため,通常の鉄鋼よりも安定な自然酸化膜を有するステンレス鋼を意図的に使用し,窒素供給を試みた.研究の結果,水素が鉄鋼表面の酸化膜の還元にも多大な効果を与えていることが初めて明らかとなった.この結果は,プラズマ素過程およびプラズマ-固体間相互作用を明確にした重要な成果である. ○応用テーマ2:平成27年度には鉄-窒素マルテンサイト相の局所形成制御に成功した.しかし大気圧由来の過剰な窒素供給により,試料表面に機械強度を低下させるボイド構造および鉄窒化物が形成した.今回我々は,水素流量比の増加による鉄鋼試料への窒素供給量の低減,さらにそれに伴うボイド構造と窒化鉄の形成抑制を達成した.これにより当該技術の実用性が向上したのみならず,NHラジカルがキーラジカルである証拠を提示し,さらにラジカル生成の制御法を確立したという点で,基礎テーマである素過程の解明も大いに前進させた. ○応用テーマ3:簡便な大気圧プラズマ窒化により医療用チタンの生体適合性向上ができれば,医療材料プロセスが医療現場などで内製化可能となる.この調査の第一段階として,大気圧プラズマ窒化された試料では,擬似体液中からリン酸カルシウム(骨の成分)がチタン表面に堆積する速度に優位性があることが初めて検証された.これは来年度の計画を推進する上で大変有用な結果である.
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今後の研究の推進方策 |
○基礎テーマ:これまでの研究において,水素が果たす役割はNHラジカルの生成,酸化膜の還元除去であることが明確化され,またプラズマモードによってはNHラジカルは決して必須ではないことも明らかとなった.これらに加え,最終年度には処理雰囲気への意図的な酸素ガスの添加が窒化へ与える影響を調査し,まずは処理雰囲気中の残留酸素の還元について明らかにする.またジェットプルームおよび電極内部パルスアークの分光分析を行い,窒素ベース大気圧プラズマの素過程のモデルを構築する. ○応用テーマ1「複雑形状材料の表面硬化技術」:基礎テーマで得られた知見を応用テーマにフィードバックし利用するのが本プロジェクトのひとつの目標であった.前回の応用テーマ2で見いだしたNHラジカルの生成密度制御が応用テーマ1で効力を発揮する.すなわち,動作ガスへの水素添加量を極力減少させ,生成されるNHラジカル密度を増加させる.本テーマで用いられる窒化処理は浸窒焼入れとは鉄鋼の合金成分も処理温度も異なるため,窒素の過剰供給はさほど問題にならず,むしろ貫通穴の深部にまで窒素が供給されると予測される. ○応用テーマ2:目的の箇所に鉄-窒素マルテンサイト相を形成でき,さらに素過程の制御によりボイドと窒化鉄の形成が抑制された現状で,残す課題は衝風冷却による相変態の可能性を追求することである.原理実証のための高効率冷却系を開発し,プラズマジェット系のみを用いた局所的浸窒焼入れ法を確立する. ○応用テーマ3:形成するTiNの緻密さや純度を向上させ,コーティング等他の技術によるTiN薄膜の生体適合性との比較を行う.原理的には応用テーマ1で述べた高密度ラジカル生成法を適用するが,水素添加量の減少に伴う酸化を防止するため,真空パージ系の開発を行う.
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