平成29年度は、鉄-塩素-フラーレン複合物の構造や性質について、量子化学計算と液体クロマトグラフィ質量分析法を用いて詳細に調べた。 量子化学計算において対象とした鉄-塩素-フラーレン複合物は、鉄原子と塩素原子を内包したC60分子と鉄原子と塩素原子を内包したC70分子とした。両分子とも最安定な構造がわかり、電子状態・電荷分布などの性質についても得ることが出来た。より具体的には、計算対象とした内包フラーレンは他の金属内包フラーレンと比較すると、HOMO-LUMOエネルギーギャップが大きく、内包フラーレン分子単体としての高い安定性が示唆された。また、内包フラーレン内の電荷分布についても、一般的な金属内包フラーレンでは内包された金属から外側のフラーレン殻に電荷が移るのに対し、今回計算対象とした内包フラーレンでは電荷の移動は顕著に小さいことがわかった。 液体クロマトグラフィ質量分析法では、カラムによる保持時間と検出される質量により分析対象分子の性質を知ることが出来るが、質量スペクトルの同位体分布パターンからは鉄原子-塩素原子-フラーレン複合分子が存在することが示唆され、液体クロマトグラフィの保持時間からはその複合分子のフラーレン殻の電荷分布は純粋なフラーレンの電荷分布と同様であることがわかった。この実験結果は上記の鉄―塩素内包フラーレンの量子化学計算結果と矛盾しない。したがって鉄原子-塩素原子-フラーレン複合分子が鉄―塩素内包フラーレンであると考えられる。
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