本研究課題は、重イオンビームを用いて、産業レベルで現実的な作製手法のないフッ素系高分子のイオン穿孔膜作製手法及び孔径制御手法を開発することを目的としている。平成27年度においては当初計画していた「雰囲気制御下で照射できるチェンバーを作製し、飛跡内生成官能基の分析及びイオン穿孔形成挙動の分析を行うこと」について予定通り成果を得ることができた。平成28年度においては、平成27年1月7日から平成29年3月31日に産前産後の休暇と育児休業により補助事業を中断したため、成果を上げることができなかった。 平成29年度は、平成27年度に作製したチェンバーを使用する高崎量子応用研究所TIARAのサイクロトロンが、メインコイルの故障のためイオン穿孔作製に必要なエネルギーをもった重イオンを生成することが不可能となり、作製チェンバーを使用した雰囲気制御の実験が実施できなかった。その代わりとして、目的である「フッ素系高分子のイオン穿孔における孔径制御手法」を達成するため、TIARAのタンデム加速器を用いて、フラーレンクラスタービームを用いてイオン穿孔の孔径制御を行った。平成30年度はフラーレンクラスタービームがフッ素系高分子に与える影響を炭素単原子ビームが与える影響と比較することで論理的に検討し、最終年度として、フッ素系高分子のうちPVDF膜に焦点を置いてこれまでの成果をまとめ、酸素中照射とフラーレンクラスター照射を使ったエッチング可能なイオントラックサイズの制御法として、国内及び国際学会にて発表し、論文を執筆・投稿した。
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