本研究では、小型でシンプルな構造でありながら、ピコ秒電子ビームの発生が可能な電界放出型Cバンド高周波(RF)電子銃を開発し、さらにそれをサブピコ秒にまでパルス圧縮する技術開発に挑戦する。装置の小型化に資するために、電子源には電界放出型の針葉樹型カーボンナノ構造体(CCNS)を使用する。 研究代表者は、平成27年度にCCNSに対する電界放出特性の測定を行った。CCNS表面に印加される電界強度が28 MV/m以下の領域では電界強度を上げるに従って放出電流値が上昇するが、28 MV/mを上回っても電流値は頭打ちの傾向になることが分かった。また、電界強度を上げるに従って、カーボン構造体から突き出ているナノメートルオーダーの先端部が破壊され、電界放出の重要な特性が劣ることも分かった。そのため、CCNSをRF電子銃の電子源として利用するには、28 MV/m以下の電界強度で使用することが一つの目安になる。しかしこの値は、例えばフォトカソードRF電子銃で利用されている電界強度100 MV/mに比べて1/3以下の値である。そのため、RF電子銃内のRF空洞の数を増やし、初段の空洞でCCNSから電子を発生し、後段の空洞で電子を加速するのが現実的である。 研究代表者は、RF空洞の数が合計3つのテスト空洞を民間の加工業者の協力の元、製作した。Cバンド空洞はその内径が小さいため目標の共振周波数に合わせるためには、空洞内径の高い加工精度が要求される。結果として、共振周波数5324.6 MHz、Q値9800、各セルの電界強度比もほぼ均一の3セル空洞を製作することに成功した。このテスト機製作で得た経験は、今後の実機製作に十分活かすことができる。 今後は、CCNSから発生する電子をサブピコ秒に圧縮する技術についてシミュレーションを行い、テーブルトップサイズの装置でテラヘルツ波を発生する装置の開発を目標としている。
|