研究実績の概要 |
実数のベータ展開に現れるdigitを解析する事は, 力学系及び解析数論において重要である. 例えば, ごく一部の例外を除いて, 代数的数のベータ展開に現れるdigitは"ランダム"であるという予想(Borelの正規数に関する予想の一般化)がある. ところが, この予想は擬似乱数などに応用があるにもかかわらず, 未解決である. 本研究では, 代数的数のベータ展開におけるnonzero digitの個数という考え方を通じて, 代数的数の"ランダム性"を研究した. 特に, ベータがPisot数やSalem数と呼ばれる代数的整数である場合, nonzero digitに関する先行結果を大幅に改良することに成功した. この結果は, 査読付国際学術雑誌に受理され, 現在出版予定である. 本研究の手法をさらに発展させることにより, 実数の代数的独立性に関して新しい判定法を構成することが出来た. この判定法により, 従来の手法では適用できない実数についても, 代数的独立性が証明可能となった. この結果は, 2本のプレプリントとしてまとめ, 投稿予定である. また, 本年度は実数のベータ展開と並行して, 正標数の関数体の整数論に関する研究も行った. Bernoulli数の類似であるBernoulli-Carlitz数が関数体の整数論の研究に応用されている. ところが, Bernoulli数の類似が知られているにも関わらず, Bernoulli数と関連のあるCauchy数については, 関数体における類似は知られていなかった. 本研究では, Carlitz exponential functionおよびCarlitz logarithm functionを応用することにより, Cauchy数の類似を構成した. 本研究の成果は, 査読付国際学術雑誌に受理され, 現在出版予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Pisot数やSalem数を用いた代数的数のベータ展開について, 数値計算では"ランダム性"が予想されている. しかし, 期待される予想と比較して, 先行結果で証明されている事実は少ない. 本研究で, nonzero digitの個数に関して先行結果を改良できた理由は, 組み合わせ論と解析数論を用いた新しい手法を発見できたためである. これにより, 代数的数のベータ展開の研究手法の幅が広がったと言うことが出来る. また, 実数の代数的独立性を判定する事は, 解析数論において重要な課題の一つである. しかし, 従来の手法が適用できる実数は, 特殊な関数方程式を満たす関数の特殊値など限られた実数のみであった. 本研究では, 実数のベータ展開に用いた新手法をさらに発展させることにより, 代数的独立性に関する新手法を得ることが出来た. その結果, 必ずしも関数等式を満たすとは限らないベキ級数にPisot数やSalem数を代入した値の代数的独立性を証明することができた. 新手法により, 代数的独立性の理論の適用範囲が大幅に広がったと言える. 代数的独立性に関する新結果は, ハンガリーのDebrecen大学で行われた国際研究集会Journees Arithmetiques 2015において発表した. さらに, 正標数の関数体において, 従来知られていなかったCauchy数の類似であるCauchy-Carlitz数を構成した. この数とBernoulli-Carlitz数の間にある種の関係式が成立する事を証明出来た. Cauchy数は, 組み合わせ論において重要な役割を果たすため, 関数体における類似を構成することにより, 関数体を研究するために有用であることが期待される.
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今後の研究の推進方策 |
ベータ展開, shift radix systemなど種々の数系におけるdigitの"ランダム性"を研究するために, エルゴード理論に関する情報を手に入れる必要がある. 申請者は8月に, 副主催者として八王子数論セミナーを開催し, エルゴード理論における主要な結果の一つであるセメレディの定理の周辺に関する情報を収集する予定である. このセミナーにより, エルゴード理論を応用した整数論の手法に関する情報を得ることで, 研究の幅が広がることが期待される. ベータ展開におけるdigitを研究する際に, nonzero digitやsum of digitが重要な役割を果たす.ロレーヌ大学のT. Stoll氏はsum of digitに関する研究を過去行ってきた. 2016年9月以降約5か月フランスに渡航し, T. Stoll氏と共同研究を行うことにより, 研究の幅が広がることが期待される. 多項式に非負整数を代入した値のsum of digitsに関する漸近的な挙動の研究に関しては, 知られていない問題も多い. この問題に対するアプローチを行うためにも, フランスに渡航し, T. Stoll氏と研究討議を行う必要がある. また, sum of digitに関して得られるであろう成果を応用して, ベータ展開やshift radix systemに現れるdigitの"ランダム性"を保障する事を目標とする. 具体的には, digitの変化回数などがランダム性を保証する指標とされている. これらの指標について, 先行研究で知られている評価式を改良することにより, 予想されている数値により近い結果の証明を目標とする.
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