研究実績の概要 |
楕円曲線のL関数の中心点での振る舞いと楕円曲線の有理点の様子の関係を予想したBSD予想に代表されるように代数多様体などから定まるL関数の特殊値と代数的サイクルやSelmer群などの代数的な対象との間の関係を調べることは整数論における重要な研究テーマの一つである. L関数の特殊値と代数的対象の関係を調べる際に, p進的な類似を考えることが本来の予想の研究に重要な進展をもたらす場合もあり, 本研究では通常のL関数の値をp進的に補間したものであるp進L関数の特殊値と代数的対象の間の関係をいくつかの場合に明らかにしたいと考えている. 一つ目のケースとしてCM体から定まるKatzのp進L関数に対する例外的零点予想が挙げられる. 総実代数体のp進L関数と単数の関係を予想したGrossによる予想があるが, その予想のCM体に対する一般化・類似は興味深い問題の一つである. 二つ目として保型形式のtriple productから定まるp進L関数に対するp進Gross-Zagier公式が挙げられる. Harris-TilouineやDarmon-Rotgerによって保型形式のtriple productに対してp進L関数が構成されており, さらにDarmon-Rotgerはこのp進L関数の特殊値と久賀-佐藤多様体の(一般化された)対角サイクルの関係を与える公式を示している. 今年度の研究では二つ目のケースに関して国立台湾大学のMing-Lun Hsieh氏と共同研究を行い, このp進L関数のある種のvariationを考え, そのp進L関数の微分値と対角サイクルの関係についての予想を定式化した. 予想した公式はBertolini-Darmonが楕円曲線から定まる反円分的p進L関数に対して証明した公式の類似と捉えることができ, ある種のp進Gross-Zagier公式とも呼べるものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は本研究の大きな目的の一つであるp進L関数の特殊値と代数的サイクルの関係についての研究をMing-Lun Hsieh氏と共同で行ない, 保型形式のtriple productから定まるp進L関数の特殊値と対角サイクルとの関係をあたえる公式に関し, 予想を定式化することができた. 交付申請書に記入した当初の研究計画とは異なる順番になってしまったが, 今年度の研究で得られた進展は本研究計画において重要なステップになっていることから研究は順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は研究実績の概要で述べたp進L関数の微分値と対角サイクルを関係付ける予想について引き続き研究を行い, 保型形式のtriple productから定まるp進L関数の微分値に関する公式をColeman積分などの理論を用いることで実際に証明することを目標に研究を進める予定である. そのために関連する分野の研究者を招聘・訪問することで直接議論を行い, 研究を発展させていきたいと考えている. また, 並行してKatzのp進L関数の例外的零点予想についても楕円単数のEuler systemを用いることで研究を進めていく予定である. さらに本研究に関連する研究分野の国内外の研究集会などに積極的に参加し, 最新の研究の動向について情報収集を行うことで研究の発展に役立てたい.
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