研究課題/領域番号 |
15K17515
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
横山 俊一 九州大学, 数理学研究院, 助教 (90741413)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 計算機数論 / 楕円曲線 / モジュラー形式 |
研究実績の概要 |
本年度は主として、楕円曲線に纏わる計算アルゴリズムについての研究と、そのデータベース化に取り組んだ。昨年度の研究実績報告でも述べた通り、本年度4月に英・ウォーリック大学の研究者を中心として研究討議を行い、数論統合データベース LMFDB にて公開するためのパッケージ ecegr を GitHub にて公開した(LMFDB へのフォーマット変換に関しては John Cremona 氏、および Haluk Sengun 氏と共同)。これは申請者が直近5年で取り組んでいる、代数体上至る所良い還元をもつ楕円曲線に関するデータベースである。 # 参考: LMFDB のページ: http://www.lmfdb.org/ 、および該当データベースに関するページ: http://www.lmfdb.org/EllipticCurve/Source (下部に引用あり)
楕円曲線については上記の他、ある程度の素点で bad reduction を許容するような楕円曲線についての生成アルゴリズムについて研究を開始した。至る所良い還元をもつ場合とは異なる、bad reduction を引き起こす素点と拡大体の理論との関連性について、数論的に興味深い現象が考察できることが分かってきた。この研究に関する進捗については、最終年度に報告できればと考えている。
一方で、楕円曲線に関する研究に傾注したため、モジュラー形式に関する幾つかの研究は最終年度に持ち越すこととなった。本年度の成果物としては、Edixhoven-Couveignes のアルゴリズムを用いた、楕円モジュラー形式の高速計算に関する論文が出版されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は全ての年度を通じて、楕円曲線とモジュラー形式の研究を同時に進めていく予定であったが、初年度にモジュラー形式に関する研究がかなり進んだため、本年度は逆に楕円曲線側の研究と理論の整備に時間を要した。これは想定外であったが、結果として初年度の研究を基に本年度進展した話題もあったため、結果としては相互啓発的な研究の進め方が出来ていると考えられる。
また、当初の目標の一つであった「得られたデータベースの適切なフォーマットでの公開」については、本年度の LMFDB project における作業で一旦達成された。最終年度までに新たなデータベースを提供できるよう、引き続き研究を進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、楕円曲線とモジュラー形式の双方において、相互啓発的な話題を通して研究を進めていきたいと考えている。
具体的には次の2つの話題を考えている: 1) ある程度の bad reduction を許容した代数体上の楕円曲線から現れる、拡大体の類数に関する理論との関連性についての研究、および 2) 特別なモジュラー曲線 X_0(N) 上の(比較的 height の大きな)有理点の効率的な計算についての研究を行う予定である。とくに 2) については、これまで研究を進めてきた楕円曲線の計算アルゴリズムを応用できる見込みがあるほか、対応するモジュラー形式との関連性についても考察する予定である。1) と 2) の研究はどちらも共同研究として進めるが、詳細については最終年度の報告にて述べる。
当初の目標の一つであった「前田予想に関する研究」については、上記 1) と 2) の研究の進捗次第で進めていきたいと考えている。とくに Hecke 体の効率計算については、ある程度のアルゴリズムと実装は得られているものの、本予想への適用以外にももう少し応用例を見出したいと考えている(が、未だ良いアイデアが得られていない)。その意味で、本研究へのエフォートはやや少なくとる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度に伴い、楕円曲線とモジュラー形式に関するデータベース開発の研究打ち合わせを行うため、海外出張を予定している。最終年度の予算では、本研究課題の成果を広く公表するための別の出張費等でほぼ使い切る可能性が高いため、次年度使用額はこの出張費に充当する。
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次年度使用額の使用計画 |
6月にドイツ・カールスルーエ工科大学、およびオランダ・ティルブルフ大学に滞在する予定である。前者は昨年度滞在した TU Kaiserslautern にて議論した内容を踏まえ、コンピュータサイエンスの専門家等と議論を行うものである。また後者は昨年度に引き続き、Magma を用いた計算代数アルゴリズムの改善に関する議論を行うためのものである。
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