昨年度に引き続き,計算代数システム Magma における代数体上の楕円曲線の高速計算について,アルゴリズムの改良およびデータベース化を進めた.とくに Magma においては今年度から,与えられた基礎体と導手(conductor)をもつ楕円曲線を逆引きで探索する内部関数が利用可能となっている.これは Cremona-Thongjunthug による j-不変量を用いたアイデアが核となっているが,これを用いても探索不可能な楕円曲線を探索可能とするプロトコルを整備した.具体的には,これまでに実装を得ていた 2-descent part の高速化,各種並列化を考慮した設計への改良などを行った.これらの成果物は,数論データベース LMFDB において公開準備を進めている. 一方.対応するモジュラー形式に関して,主として楕円モジュラー形式の高速計算に関して研究調査を進めた.これによって得られた成果は,申請者が世話人を務めた整数論サマースクールにおいて紹介し,講義録の出版を行った.並行して,関連する Hecke 体の計算におけるボトルネックである整環(maximal order)の効率的な計算に関して幾つかの改良を試みた. また,本研究課題に関連して,局所体上の特定のアーベル拡大を高速生成する研究(吉田学氏と共同)について,幾つかのアルゴリズムの修正を行った. また本項目においては公表を差し控えるが,企業との共同研究(楕円曲線暗号に関する研究)において,本研究課題において得られた知識や成果を援用した.これにより,高いセキュリティレベルをもつ楕円曲線の pairing 暗号の実装とその評価を行うことに成功した.
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