当該研究の主な目的は、(有界)導来圏の圏構造および有限次元多元環の導来同値を具体的な方法により解析することである。特に、伊山修氏との共同研究により導入した(準)傾変異を用いて、導来圏および導来同値に関する様々な計算を線型代数的手法や組み合わせ的手法に帰着させることである。主な問題点は、(1)導来同値を引き起こす(準)傾対象の分類について、および、(2)(準)傾対象の間の関係を調べるための(準)傾連結性について、の2点である。本研究では、この二つの問題の解決を目指す。平成30年度は主に以下の研究を行った。 (1)管型対称多元環がτ傾有限であることを示し、特に、τ傾加群の個数を求めた。この結果を用いて、この多元環が傾離散であることがわかった。 (2)三角圏における準傾対象の存在・非存在について、考察を行った。特に、特異圏を観察し、右自己入射次元有限な多元環の特異圏には準傾対象が存在しないこと、および、その拡張を得ることができた。この研究は継続中であり、一般に特異圏には準傾対象が存在しないことを予想とし、その解決を目指している。 (3)多元環が有限表現型ならばτ傾有限であるが、「どのような多元環でこの逆が成り立つか?」という問いは自然である。そこで、様々な多元環のクラスを考察し、この命題の逆が成り立ついくつかの多元環のクラスを得ることができた。この研究は継続中であり、この命題の逆が成り立つ多元環のクラスを完全に分類することを目指す。 (4)安定CM圏が三角圏構造をもつ弱岩永・ゴーレンシュタイン多元環について考察した。特に、ブラウアーツリー多元環から弱岩永・ゴーレンシュタイン多元環を構成する方法を与え、さらに、それは有限CM表現型であることを示した。 研究期間を通じて主に、ブラウアーグラフ多元環や前射影多元環、ツリークイバー多元環などの傾離散性とその周辺の性質に関する結果を得ることができた。
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