研究実績の概要 |
平成 29 年度は、1. 総実体上のアーベル多様体の Tate-Shafarevich 群の位数の非可除性に関する研究, 2. 志村曲線の有理点の存在、非存在に関する研究, 3. Hilbert モジュラー形式の計算理論に関する研究を中心に行った. 1. については, 昨年度に得られていた Hilbert モジュラー形式の L-関数の二次捻りの中心値の mod p での非零性に関する結果の重さがパラレルに2の場合での応用として, Hilbert モジュラー形式に付随するアーベル多様体の二次捻りで Tate-Shafarevich 群の p torsion part が消えるものの個数を評価することが目的であった. それを示すために Kolyvagin の結果の Gross による修正版を総実体の場合に拡張すればよいことがわかり, 拡張を試みた. 2. は, 新井啓介氏(東京電機大)との共同研究で, Jordan, Livne や新井氏らにより知られていた有理数体上の志村曲線の有理点の存在, 非存在性に関する結果を総実体上の志村曲線に対して拡張することを目標としている. 総実体上の志村曲線は一般にモジュライ解釈を持たず, CM 二次拡大で基底変換することで, その CM 二次拡大体上の四元数環で QM を持つアーベル多様体でのモジュライ解釈が得られる. 有理点の非存在性は, 還元により得られる有限体上の QM アーベル多様体の自己準同型環の構造から調べることができる. これを踏まえて, Honda-Tate 理論を使うことで p 元体上の QM アーベル多様体の自己同型環の構造の分類に成功した. 3. 整数論サマースクールにおいて, Hilbert モジュラー形式の計算理論に関する現状について講演した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Kolyvagin の結果の Gross による修正版の拡張にかなり時間が掛かってしまっていること, は一つの要因である. また, 上記の L-値の中心値の mod p 非零性には, 対角制限で得られるモジュラー形式のある係数が mod p で割れない, ということを仮定している. その仮定でも具体的な状況では計算して確認できるが, 十分大な任意の素数でよい, と言う形への拡張を試みていたことも理由の一つと言える.
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今後の研究の推進方策 |
1. については, 引き続き Gross の結果の拡張を試み, また Hilbert モジュラー形式の対角制限が消える条件を記述し, 十分大な任意の素数でよい, と言う仮定にまで緩める. 2. については, 任意の有限体上の QM アーベル多様体の自己同型環の構造の分類を行い, Jordan-Livne による局所体での有理点の存在のための必要十分条件や Jordan や新井氏による Hasse 原理の反例の総実体上の志村曲線への拡張を試みる. また, 3. で得られた理解を元に Hilbert モジュラー形式の計算理論への志村多様体の応用に関する研究なども並行して行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
高額な備品を購入する必要もなかったこと、また、予定の都合により, あまり出張に行くことが出来なかったことが理由として挙げられる. 次年度は, 国内の共同研究者との研究打ち合わせやこれまでの結果などについての講演, 情報収集の為に使用しつつ, 国外の研究者との共同研究, 打ち合わせのために複数回海外渡航費に使用する予定である.
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