研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続き総実体上の四元数環に付随する志村曲線の幾何に関わる研究を中心に行っていた. 特に, そのような志村曲線に対する有理点問題に関する研究について、新井啓介氏(東京電機大)との研究に重点をおいて行った. その研究においては, 志村曲線のベースチェンジの有理点が CM 二次拡大への係数拡大で得られる四元数環で乗法を持つアーベル多様体の同型類によるモジュライ解釈を持つという性質から, アーベル多様体の構造を解析することにより, 間接的に有理点の存在性について調べるという手法をとっている. 今年度は、四元数環 D で乗法を持つ有限体上のアーベル多様体の自己準同型環の構造が D とどの様に関係しているかを明らかにし, プレプリントとしてまとめた. 投稿用に校正した後, arXiv にアップし論文誌に投稿する予定である. この結果により、志村曲線の有理点に存在, 非存在に関する大まかな情報はわかる. Galois 表現を用いたより詳しい大域有理点の非存在性については重要な課題として引き続き共同研究を継続している. 一方で, 今年度は新たな研究の方向性を見出す機会にも恵まれた. Andrea Mori 氏(トリノ大学)との共同研究として保型形式の志村曲線上の CM 点での展開原理とその応用に関する彼の一連の研究を総実体上への拡張する問題に取り組み始めた. コロナウィルスの関係で期間中に予定していた訪問を断念せざるを得なかったことは心残りである. また, 本研究で扱っている対称が暗号などにも使われるラマヌジャングラフの構成と関連していることから, 田中亮吉氏(東北大), 三内顕義氏(理研 AIP)とのグラフの性質の解析に関する共同研究も始まった.
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