エンリケス曲面上の自己同型のうち、射影的な記述ができる単純な自己同型の合成として表せるようないくつかの無限位数のものについて、コンピュータを用いてエントロピー(力学的次数)を計算してみた(最小多項式だけ計算して、サレム数のリストと比較するという原始的な方法)。これにより、より小さいエントロピーを持つ自己同型の射影実現を見つけたり、エンリケス曲面全体に対する力学的次数分布だけでなく、固定したエンリケス曲面上での力学的次数分布について規則性がわかる可能性もあるかと思ったものだが、あまり良い結果は得られなかった。むしろ、松本・Ramsとの共同研究論文に載せた、対称4次K3曲面の商の場合のような、理論的な考察ができる場合を探すべきだと感じた。一方で、この力学的次数分布の問題について、Brandhorst・Rams・島田によるより精密な結果を含むプレプリントが出ていたので、興味深く読ませてもらった。無限位数の自己同型についてはまだいろいろな類別がなされてしかるべきだと思うが、良い切り口を設定することがまだまだ難しいと感じる。
正標数のK3曲面についても、10年ほど前に大きな進展を見た野性的自己同型やシンプレクティック有限自己同型群の分類について、精密化・一般化する方向で何かできないかと考え始めた。穏やかな自己同型群の場合ですら、例外群の射影構成が得られていない理由を知りたいと思ったが、いまのところまだわからない。現時点では、先行研究を精密化できる形の予想をいくつか立てることができた。
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