研究課題/領域番号 |
15K17534
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
山形 紗恵子 横浜国立大学, 教育学部, 准教授 (70513563)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 相対的双曲群 / 相対的擬凸部分群 |
研究実績の概要 |
可算とは限らない群 G の, 部分群たちからなる族を 2 つとり, H と K とおく. (つまり, H と K の元は G の部分群である.) ただし, K の任意の元に対し, それを含む H の元が必ず存在しているとする. すなわち, A を K の元とすると, それは G の部分群であり, その G の部分群である A を含む G の部分群 B であって, B は H の元であるようなものが存在しているとする. このとき, G が H に関して相対的双曲性をもち, さらに, G が K に関しても相対的双曲性をもつための必要十分条件を与えた. より詳しくは, G が K に関して相対的双曲性をもつとき, H の元に関していくつかの条件をつけることによって, G は H に関しても相対的双曲性をもつことを明らかにした. 反対に, G が H に関して相対的双曲性をもつとき, H の任意の元は K のある部分集合に関して相対的双曲性をもち, さらに H の有限個を除く任意の元が K のある元たちの自由積に分解されるならば, G は K に関しても相対的双曲性をもつことを証明した. また, ある部分群の族に関して相対的双曲性をもつ, 可算とは限らない群に対して, その部分群が相対的に擬凸であることの定義を, 以前, 申請者が青山学院大学の松田能文氏, 愛媛大学の尾國新一氏との共同研究により与えていた. この定義を元に, G が H に関して相対的双曲性をもち, さらに, G が K に関しても相対的双曲性をもつとき, G の部分群 L が H に関して相対的に擬凸であることと L が K に関して相対的に擬凸であることの関係性を考察した. 本年度は松田氏, 尾國氏との共同研究である, 上記の内容の論文を精査して雑誌に投稿し, 掲載許可を受けた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
群 G を可算とは限らない群とする. 現在まで, G が H に関して相対的双曲性をもち, さらに, G が K に関しても相対的双曲性をもつための必要十分条件を与えた. それに加えて, 群 G が H に関して相対的双曲性をもち, さらに, G が K に関しても相対的双曲性をもつとき, G の部分群 L が H に関して相対的に擬凸であることと L が K に関して相対的に擬凸であることの関係性を考察した. 以下, 現在進行形で研究している内容に関して説明する. 有限生成とは限らない群 G が, その部分群の族 A に関して相対的双曲性をもつとする. このとき, 族 A を群 G の相対的双曲構造 (relatively hyperbolic structure, RHS と表記する) とよぶ. 相対的双曲性をもつ群に対し, その RHS を用いた, Osin による群の自由積への分解定理が知られている. しかし, この分解定理は一意的な自由積への分解ではない. なぜならば, 一般に相対的双曲性をもつ群の RHS は一つとは限らないからである. そこで, RHS を用いては, それ以上分解できないという意味で一意的な, 群の分解があるときの RHS を普遍相対的双曲構造 (universal RHS, URHSと表記する) とよぶことにする. そして, 与えられた群が URHS をもつための必要十分条件を与えることを最終的な目標とする. ところで, 有限表示ではない, 有限生成群において URHS をもたない群の実例が知られている. 一方で, 有限表示群においては URHS をもたない群の実例は今のところ知られていない. しかし, 残念ながら, 申請当初の研究実施計画にあった,「有限表示群ならば URHS をもつ」ということを証明するまでに至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
有限生成とは限らない群 G が, その部分群の族 A に関して相対的双曲性をもつとする. このとき, 族 A を群 G の相対的双曲構造 (relatively hyperbolic structure, RHS と表記する) とよぶ. 相対的双曲性をもつ群に対し, その RHS を用いた自由積への分解定理が知られている. しかし, この分解定理は自由積への一意的な分解定理ではない. なぜならば, 一般に, 相対的双曲性をもつ群の RHS は一つとは限らないからである. そこで引き続き申請者が目指すのは RHS を用いてはこれ以上分解できないという意味で一意的な, 群の自由積への分解定理を得ることである. そのためには, 新たな視点から相対的双曲性をもつ群を眺める必要がある. その新たな視点とは, (分岐) ランダムウォークである. 具体的には, 相対的双曲性をもつ群に対して, そのケーリーグラフ上の (分岐) ランダムウォークを考え, そこから RHS を用いた群の自由積への分解定理を得ることを考えていく. 第一段階として, この (分岐) ランダムウォークを用いることによって, 相対的双曲性をもつ群に対して, その境界の様相を調べることを目標とする. 境界の様相を調べることは, (分岐) ランダムウォークが時間を進めるとどのような状態に収束するのかを調べることである. これにより, 相対的双曲性をもつ群の代数的な性質が引き出せるのではないかと考えている. 特に, 分岐ランダムウォークの境界とランダムウォークの境界を比較することにより, RHS を用いた群の自由積への分解へとつながるような代数的な性質を引き出すことができるのではないかと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)子どもが小さいため体調を崩すことが多く, 予定通りに本研究と関連する研究集会へ参加することができなかった. 実際, 子どもの看病をするために, 予定をしていた研究集会への参加を開催直前に取りやめたこともあった. 従って, 旅費をあまり計画どおりに使用することができなかった. また, 研究環境を整備するため, 色々精査して物品を購入する予定で物品費を計上していた. しかし, 子育てをしながら研究を行っているため, 精査して物品を購入する時間的な余裕もあまりなく, 当初の計画通り物品費を使用することができなかった.
(使用計画)次年度は子どもも少し大きくなるので, 体調を崩すことが今年度よりも少なくなると予想される. 従って次年度は, 研究に関連するような, 国内外の研究集会, 学会などへ旅費を利用して積極的に参加する予定である. また, 仕事に費やせる時間も今年度よりも増えると予想されるので, 研究環境を整備するために, 購入する物品を精査する時間も確保できると考えている. 従って, 研究室のパソコンを購入するためなどに物品費を使用する予定である.
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