研究実績の概要 |
27年度はまず RCD 空間の正則集合が1次元の場合の分類について, すでに得られていた証明が少し間違いがあったので, その修正を行った. この修正では本質的に最適輸送の理論を深く使っている. 特に測地線の分岐が起きないことをエントロピーの凸性を用いて示している. これはすでに Rajala-Sturm によってなされた議論を我々の目的のために注意深く修正し, 適用したものである. さらに1次元の円周上に正曲率を持つ RCD 空間が収束しないことを測度の Radon-Nikodym 微分の凸性から示した. これは Ricci limit 空間の文脈では知られていたが, その証明は球面の体積の剛性を使っており, 我々の設定では現在の所意味を持たない. 次に正則集合の研究から着想を得て, RCD 空間の接錐の研究に着手した. 接錐とは固定された点の周りの拡大極限であって多様体の場合はよく知られたように多様体の次元と等しいユークリッド空間が出てくる. しかしながら RCD 空間の場合には接錐は一意とは限らず, 特異な空間が出てくることもありうる. Ricci limit 空間の場合には, 非崩壊という概念が知られており, その場合接錐が距離錐という非常に性質の良いものになることが知られていた. この非崩壊という概念は, 空間を近似する多様体なしには定義することができないので, RCD 空間の文脈では意味をなさない. そこで, 非崩壊な Ricci limit 空間では Bishop 型の不等式が成り立つという観察から, RCD 空間上に Bishop 型不等式を仮定することで接錐が距離錐になり, さらに同様の仮定の下で RCD 空間の次元がきちんと整数値を取るということも示した.
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今後の研究の推進方策 |
まずは当初掲げていた目標の一つである, 特別な場合における RCD 空間と位相多様体の近さを証明することを考えている. そのために Ricci limit 空間で同様の結果の証明のために使われていた Reifenberg method と呼ばれる手法の勉強をして, 証明に取り掛かろうとしている. さらに最近測度距離空間上の微分構造と呼ぶべきものが定義されたので, その結果を用いて二次元の RCD 空間の研究にも取り掛かろうとしている.
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