AnkerらはDamek-Ricci空間上の球フーリエ変換論を,KoornwinderによるJacobi関数とJacobi変換の特別な場合に帰着することにより確立した.この方法の本質は,ラプラス作用素の固有関数方程式が,ある変数変換により超幾何微分方程式に変換されることである.この事実に着目し,「超幾何型調和多様体」の概念を定義し,調和アダマール多様体において超幾何型であることが,リーマン体積要素がある特定の形で書けることと同値であることが明らかになっている. 本年は,伊藤光弘氏(筑波大学)との研究により,Koornwinderの方法に依らずに,球フーリエ変換の反転公式,Paley-Wiener 型定理,Plancherel の定理をより幾何的な方法で証明することに成功した.また,この過程で調和アダマール多様体においては,(i) ラプラス作用素の固有関数方程式を超幾何微分方程式に変換するときの変数変換が本質的に一意的であることと,(ii) 超幾何型ならば体積エントロピーの値が(n-1)/2から(n-1)の範囲に含まれることの2点を明らかにした.
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