研究課題/領域番号 |
15K17549
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷部 高広 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (00633166)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 正規分布 / 自由たたみこみ / Coxeter群 / Fock空間 / 単峰性 / 自由安定分布 |
研究実績の概要 |
佐久間紀佳、Steen Thorbjornsenとの共同研究で、古典的な正規分布が自由確率論の意味で自己分解可能であることを証明した。これは2011年のBelinschi et al.の論文の結果を強くした定理であるとともに、自由確率論においても正規分布が興味深い役割を持っていることを示唆する結果となっている。また我々の結果と、先行研究のThorbjornsen-長谷部の結果を合わせると、正規分布に対応する自由Levy過程の任意の時刻における確率密度関数が単峰である(極値を1つだけ持つ)ことが分かる。今後はさらなる正規分布の性質の解明を行いたい。また古典と自由における自己分解可能な確率分布のクラスがどのくらいの共通部分を持つのかという新たな課題も出てきた。この方向に関してフランスのThomas Simonと彼の大学院生のMin Wangとの共同研究を行っているところである。 ポーランドのMarek Bozejko, Wiktor EjsmontとD型Coxeter群を用いたFock空間の変形を構成し、Wickの定理を証明した。先行研究と合わせると、有限Coxeter群の主用な系列(A,B,D, CはBと同型)は網羅したことになるが、無限Coxeter群を用いたFock空間の変形を構成できるかというチャレンジングな問題が残っている。研究において様々なCoxeter群の組合せ論が現れた。例えば我々は「D型の集合の分割」を定義し、それがD型Coxeter群と酷似していることを見いだした。このように、我々の研究から今後Coxeter群に対する新たな視点が生まれてくるのではないかと期待できる。また作用素環論の観点からの研究も今後望まれる。例えばFidaleoらの行っているC*代数における群作用のエルゴード性の観点から、我々の構成したFock空間を調べていくという研究が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もともと主な研究計画として考えていたのは以下のものである: 自由無限分解可能分布の研究、乗法的自由たたみこみの研究、キュムラントの研究及び組合せ論的なHopf代数との関係、対称群の漸近表現論の研究。 自由無限分解可能分布の研究に関しては、「研究実績の概要」で述べたように、正規分布が自由自己分解可能であるという予想外の性質を明らかにでき、大きな進展があった。他に、Jiun-Chau Wang とHao-Wei Huangと自由たたみこみを拡張した2次元の確率分布に対するたたみこみについて様々な計算を行い、理解が進展した。Thomas SimonとMin Wangとの研究で自由安定分布の予想外の性質が明らかになってきている。乗法的自由たたみこみについてはOctavio Arizmendiとの極限定理に関する論文を仕上げている最中である。これは予定よりも進行が遅れている。 Franz Lehnerとのキュムラントの論文はほとんど完成しているが、まだ終わっておらず、予定よりも進行が遅れている。12月のカナダのBanffの研究集会でHopf代数の専門家で自由確率論にも取り組んでいるEbrahimi-Fardと議論して、Hopf代数とキュムラントの新しい成果を学ぶことができた。またFock空間の変形についても複雑なD型Coxeter群の組合せ論と集合の分割の意外な結果が見つかった。対称群の漸近表現論については、洞彰人によるヤング図形の上のマルコフ連鎖を学び、その極限定理に現れる分布の概形を数値的に描いた。この方向性はまだそれほど進んでいない。 以上をまとめると、予定以上に進展した部分と進展しなかった部分があり、平均的には順調に進んでいると思う。
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今後の研究の推進方策 |
まだ完成していないが完成に近い論文を仕上げたい。今のところ、Octavio Arizmendiとの共著と、Franz Lehnerとの共著が残っている。またHao-Wei Huang, Jiun-Chau Wangとの共同論文が進行中である。2月または3月にArizmendiのいるGuanajuato、Franz LehnerのいるGraz、Huangのいる台湾、WangのいるSaskatoonのうちいくつかを訪問したい。 自由たたみこみについて、博士課程の大学院生と確率測度の単峰性についてさらに研究を進めている。Haagerup, Thorbjornsen, 佐久間と長谷部によって発展した手法を応用することができると思っている。また乗法的なたたみこみについても複素関数を使った方法と組合せ論を使った方法の両面について、多くの面白い問題があるので、大学院生と取り組んでいく。Thomas Simon, Min Wangと研究している自由安定分布についてはまだ難しい問題が残っているので解決したい。Airy関数に類似した関数を解析する必要があり、特殊関数や漸近解析の勉強をする必要がある。7月ごろに京都でSimonと討論する予定である。 キュムラントとHopf代数については、Ebrahimi-FardとPatrasによる最近の論文を読んだところである。彼らの論文は自由、単調、ブールキュムラントを扱っているが、ほかのキュムラントにも応用できるかどうかを検討してみたい。またFranz Lehnerと長谷部の執筆中の論文でもHopf代数的な構造が現れているが、Ebrahimi-Fardたちの研究と関係があるかどうかを考えたい。 対称群の漸近表現理論については、洞の研究の周辺を学びながら、今後の方向性を検討していきたい。
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