コンパクト可微分多様体上の可微分同相写像は体積測度を保つとする.ここで体積測度は双曲的,すなわち体積測度に関してほとんどすべての点でゼロのリャプノフ指数をもたないとする.このとき力学系を非一様双曲系とよぶ.非一様双曲系は,体積測度に関してほとんどすべての点において,拡大的葉層及び縮小的葉層とよばれる可測な不変葉層をもつ.これらの葉層対のなす直積空間において,ほとんどすべての大域的葉対が少なくとも一つの横断的交差をもつとき,横断的概到達可能であるとよぶことにする.また,ほとんどすべての大域的葉対が少なくとも交差するとき,概到達可能であるとよぶことにする.ここで後者において,交差の横断性は仮定しない.つまりこの場合,葉層対の交差は接触のみであってもよい. これまでの研究で,多様体が4次元以下の場合,概到達可能性をもつ非一様双曲系が体積測度に関してエルゴード的であることを示していた.本年度はその議論を整備し,その過程で体積測度のエルゴード性に関する位相的条件をいくつか与えた.ここで,力学系の位相的複雑さとエルゴード理論的(確率論的)複雑さの関係は古くからの興味深い研究対象である.最近では多様体が2次元の場合にRodriguez Hertzたちによる研究がある.彼らの手法は3次元の場合でさえ直接には適用できないが,本研究の議論を用いることで新たな事実を示すことができた.これらの結果を中心に論文を作成し学術雑誌に投稿した.また関連する話題について発表を行った.
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