部分的双曲型力学系に対しては,付随する位相的不変葉層に関する密度点とホロノミー写像の正則性に関する手法が2000年頃に提示された.その後,この手法は改良され,体積を保つ部分的双曲型力学系のエルゴード問題に大きな進展を与えた.これに対して,非一様双曲型力学系のように,一般に位相的とは限らない不変葉層をもつような力学系において,そのような手法は確立されていない.しかしながら,本研究によるこれまでの成果の一部として,いくつかの特別な非一様双曲型力学系に対しては,この手法に類似した幾何学的議論が構築され,そしてそれは体積を保つ非一様双曲型力学系のエルゴード問題へ応用されている.これに関する一つの論文の掲載が確定し,一つの論文が受理された. この幾何学的議論は,一般の非一様双曲型力学系に対しても拡張可能であると思われ,この拡張を実現するための研究を引き続き行った.特に,1.幾何学的議論が次元による制約を受けずに機能すること,2.議論全体の形式化,の互いに関連する2点について,これまでの議論全体を再構築しながら研究を遂行した.その過程では,いくつかの(それぞれに自然と思われる)形式化が得られ,それぞれについて比較検討を行った.これらは一般の非一様双曲型力学系に関するものであるが,さらに部分的双曲性を仮定した力学系(つまり非一様かつ部分的双曲型力学系)についても同様の研究を遂行した.またこの研究に密接に関連する,部分的双曲型力学系の不変葉層の到達可能性について,その定量的観点からの研究に着手した.
|