平成30年度は前年度に引き続き,Klein群(Riemann球面上の1次分数変換のなす離散群)の極限集合(空でない最小の不変閉集合)として与えられる円詰込フラクタル(互いに交わらない開円板の和の補集合として与えられるフラクタル)におけるラプラシアンの解析に関し既に得られていた結果の深化,およびLiouville Brown運動に対する熱核のより詳細な評価の証明を目標に研究を行った. 前者については最も古典的な円詰込フラクタルであるApollonian gasketの上のラプラシアンに関して,対応するエネルギー汎関数であるDirichlet形式に対して既約性の仮定の下では既に得られていた一意性を既約性の仮定なしで証明するとともに,Dirichlet形式の定義域が「Apollonian gasket上の1階L2-Sobolev空間」とでも呼ぶべき具体的な関数空間に一致することを証明した.これらの研究結果については従前から作成していた原稿中に盛り込む形で論文として執筆中である. 後者のLiouville Brown運動に関しては,イギリス・Cambridge大学を訪問し,従前からの共同研究者であるSebastian Andres氏,およびLiouville Brown運動に対応するランダム幾何構造の理論の専門家であるJason Miller氏と共同研究を継続した.ランダムネスの空間的相関の強さを表す物理パラメータがある特定の値の場合については,このランダム幾何構造を平面上のランダムな距離関数として実現できることが知られている.筆者らはこのようなランダム環境中で上からの劣Gauss型熱核評価を導くための一般論を与え,これをLiouville Brown運動の場合に適用することで前述の距離関数に基づく理想的な形の上からの劣Gauss型熱核評価を証明することが可能であろうとの感触を深めた.
|