研究課題/領域番号 |
15K17556
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
廣瀬 三平 芝浦工業大学, デザイン工学部, 助教 (20743230)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 完全WKB解析 / Pearcey系 / 仮想的変わり点 / 非遺伝性変わり点 / 新しいStokes曲線 / Stokes現象 / q-差分方程式 |
研究実績の概要 |
平成29年度は(1)偏微分方程式系の非遺伝性変わり点、(2)q-差分方程式に対する完全WKB解析を中心にしつつ、関連する偏微分方程式系の完全WKB解析の研究を進めた。 (1)については、Pearcey系の制限として得られる常微分方程式にはPearcey系の変わり点集合の制限には現れない2重変わり点(非遺伝性変わり点)の存在がこれまでに示されていた。今年度は非遺伝性変わり点から出るStokes曲線について河合隆裕氏(京都大学)、竹井義次氏(同志社大学)、佐々木真二氏(トロント大学)と考察を行った。このStokes曲線はその他のStokes曲線と交わるので新しいStokes曲線、さらに仮想的変わり点を付け加える必要がある。これまでの仮想的変わり点は常微分方程式をBorel変換して得られた方程式の陪特性曲線の自己交差点として捉えられていたが、非遺伝性変わり点に起因する仮想的変わり点は陪特性曲線だけでなく、これらを分岐させた曲線を全て集めた集合の自己交差点として捉えられることを確かめた。さらに、この仮想的変わり点から出る新しいStokes曲線で実際にStokes現象が起こる可能性があるものについて考察した。また、非遺伝性変わり点はA4型の単純特異点に関係する振動積分の満たす偏微分方程式系など様々な例に存在することを示した。 (2)については、q-差分作用素がWKB型の微分作用素と捉えられることを利用して具体的なq-差分方程式に対してWKB解を構成し、そのBorel変換の構造を考察した。特に方程式の独立変数とqについてのStokes現象が起こる集合やそこでのStokes現象を記述した。超幾何系においても差分的な構造を持つものがあるのでこの考察を発展させるのは今後の課題である。 以上の結果はスペイン、京都大学で開催された国際研究集会、山口大学で開催された研究集会などにおいて講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非遺伝性変わり点があることに起因する仮想的変わり点が陪特性曲線の視点から捉えられることだけでなく、q-差分方程式に対して完全WKB解析を展開できたことは大きな進展であった。特に、陪特性曲線を分岐させた曲線を考慮する必要があることは仮想的変わり点の定義などに関係しており、超幾何系だけでなく常微分方程式や偏微分方程式系などの完全WKB解析においても重要である。 このように当初予定していなかった研究が進展したために、本来予定していた研究については遅れている。しかし、平成29年度に得られた結果は超幾何系に対する完全WKB解析とも密接に関連しており、優先して考えるべき重要な内容である。以上のように予定していた実施計画を進展させることができず不十分であるが、当初想定していなかった研究が大きく進展しているので「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成30年度は、これまでに得られた成果の公表を優先して進める。 また、非遺伝性変わり点は2重変わり点であり、この変わり点から出るStokes曲線はStokes現象に関係ないものであるが、考えている方程式を摂動するとStokes現象に関係する。2重変わり点を持つ方程式の仮想的変わり点、新しいStokes曲線、そしてStokes現象を考察することは大きな課題であるが、この摂動した方程式を具体例としてこの課題に取り組む。 さらに、これまでに考察したPearcey系に対する完全WKB解析により、偏微分方程式系自体だけでなく、それを制限して得られる常微分方程式を考察することによってこれまで発見されていなかった新たな現象を見つけることができた。このことを踏まえ、A4型の単純特異点に関係する振動積分やWeierstrassの楕円函数を相函数とする積分の満たす偏微分方程式系など具体的例に対し、制限により得られる常微分方程式との関係を考慮しつつ考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた出張を取りやめたことが理由であり、次年度に出張を行う。
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