研究実績の概要 |
平成27年度の主目標は, 不確定版の頂点作用素を定義し, それらが一意的に存在することを証明することであった. 確定特異点版の頂点作用素は Virasoro 代数の Verma 加群から Verma 加群へ作用素であり, 最高ウェイトベクトルの行き先が Fuchs 型方程式の確定特異点の周りでの局所解の表示に類似している. このことから, 不確定頂点作用素においては最高ウェイトベクトルの行き先が線形微分方程式の不確定特異点の周りにおける形式級数解の表示となるように定義すべきであることが推察される. また確定特異点版の頂点作用素の自由場表示は退化操作をすることができ, すなわち, 不確定頂点作用素の自由場表示は得られている. 不確定頂点作用素の自由場表示は Verma 加群ではなく Whittaker 加群に作用していることから, 一般の不確定頂点作用素は Whittaker 加群に作用するべきである. これらのことを合わせて, 不確定頂点作用素を次の2つの場合に定義した: a) Verma 加群からランク r の Whittaker 加群への不確定頂点作用素と, b) ランク r の Whittaker 加群からランク r の Whittaker 加群への不確定頂点作用素. このうち, b の場合について不確定頂点作用素の一意性と存在を示し, 論文で発表した.
b) の場合の不確定頂点作用素を構成できたことにより, 不確定特異点が2点以下の場合に不確定共形ブロックの不確定特異点における級数展開が与えられ, 特に級数展開の代数的な計算方法が与えられたことになる. 特別な場合に, 不確定共形ブロックは合流型超幾何積分で表示されることを鑑みると, 我々の結果は合流型超幾何積分の漸近展開の代数的な計算方法を与える事になり興味深いものと思われる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度には, 1) VIrasoro 代数の不確定頂点作用素の存在および一意性の証明を与えることを計画していた. 考察したい不確定頂点作用素は a) Verma 加群からランク r の Whittaker 加群への不確定頂点作用素と, b) ランク r の Whittaker 加群からランク r の Whittaker 加群への不確定頂点作用素であった. このうち, b) の場合について存在及び一意性の証明に成功したが, a) の場合についてはまだ証明が完成していない.
2) 次に予定していた不確定共形ブロックが超幾何関数などの特殊関数の漸近展開を表すことの確認は行えた. また量子パンルヴェ方程式の不確定特異点における形式級数解を与えることも確かめられた. これは不確定共形ブロックがいわゆる Belavin-Polyakov-Zamolodchikov 方程式の不確定特異点版を満たすことからわかる.
3) 不確定共形ブロックの不確定特異点における展開を明示的に構成することを目指したが, 部分的な予想は得たもののいまだに明示的表示の予想すら得られていない.
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今後の研究の推進方策 |
VIrasoro 代数の Verma 加群からランク r の Whittaker 加群への不確定頂点作用素の存在および一意性を, ランク r の Whittaker 加群からランク r の Whittaker 加群への不確定頂点作用素の存在及び一意性の証明を参考にして, 完成させる.
不確定共形ブロックの不確定特異点における展開の明示的な表示を構成することは, 合流型超幾何積分の漸近展開を明示的に表示することと同じであるので, 今後は合流型超幾何積分を Schur 多項式を用いて漸近展開することを目指す.
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