研究課題/領域番号 |
15K17563
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
渡部 拓也 立命館大学, 理工学部, 准教授 (80458009)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | レゾナンス / エネルギー交差 / 準古典解析 / シュレデインガー方程式 / WKB解 / Effective Hamiltonian |
研究実績の概要 |
平成28年度は、ボローニャ大学のAndre Martinez教授、立命館大学の藤家雪朗教授との共同研究である「エネルギー交差の生成するレゾナンス」について、昨年度に引き続き取り組んだ。この研究は、多原子分子系を記述する多体シュレデインガー方程式から、ボルン-オッペンハイマー近似・フェッシュバッハ簡約化によって得られる実効ハミルトニアン(Effective Hamiltonian)である2×2行列値作用素の固有値問題である。行列値作用素の非対角成分である相互作用がベクトル場となる場合は、この導出の観点からも考察すべき自然なモデルであり、今年度はこの場合について取り組んだ。レゾナンスの虚部の漸近展開について詳しい解析を行い、その主要部をエアリー関数を用いて表すことに成功した。この結果は、「Journal of Differential Equations」に投稿し、掲載予定である。また、この結果と過年度の結果を量子化条件の視点から整理し、「RIMS講究録別冊」及び「2016年夏の作用素論シンポジウム」にて発表した。 またボルドー大学(立命館大学客員教授)のMouez Dimassi教授、立命館大学の吉田尚矢氏と「2次元磁場付きシュレディンガー作用素の固有値の強磁場極限」について、共同研究を行った。強磁場極限は準古典極限に対応するもので、この問題を準古典超局所解析とフェッシュバッハ簡約化により、実効ハミルトニアンの解析に帰着させ、ポテンシャルの局所的性質をもとにアプローチすることについて議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ボローニャ大学のAndre Martinez教授、立命館大学の藤家雪朗教授との共同研究である「エネルギー交差の生成するレゾナンス」は本研究課題の主たる課題であり、これについては順調に進展している。分子の前期解離過程における量子共鳴(レゾナンス)に関して、結合エネルギーと反結合エネルギーが交差するレベルのレゾナンスについては、昨年、一昨年の結果により明らかになった。特に、交差における相互作用に応じて、そのレゾナンスの虚部のオーダー及び主要項に関して詳細な結果を得た。ともに論文投稿に至り、Journal of Differential Equations に掲載決定となったことを踏まえると、順調に進展しているといえよう。 続いてボルドー大学のDimassi教授との新たな研究課題が生まれたことも、研究の進展として評価できると考えているが、その一方でZerzeri准教授と取り組んでいる「エネルギー擬交差における遷移確率の断熱極限」に関する研究が停滞していることは、自身の大きな課題である。 これらを鑑み、本研究課題の進捗状況については、概ね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
ボローニャ大学のAndre Martinez教授、立命館大学の藤家雪朗教授との共同研究である「エネルギー交差の生成するレゾナンス」について、さらに研究を進める。分子の前期解離過程における量子共鳴(レゾナンス)に関して、結合エネルギーと反結合エネルギーが交差するレベルについては我々が終え、結合エネルギーの底のレベルについてはGrigis-Martinezにより、底と交差点との中間レベルについては、蘆田-Martinezによって研究された。今後課題となるのは、エネルギー交差より上のレベルにおいて、そのレゾナンスの虚部が、どのように与えられるかということである。特に対応する古典軌道が生成する2つの作用積分が、レゾナンスの虚部にどのように寄与するかを調べることになる。 また、ボルドー大学のDimassi教授、立命館大学の吉田氏との共同研究では、ポテンシャルの局所的な性質から決まる擬微分作用素のスペクトルの解析について研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の使用計画の通り、隔年開催している国際研究集会「Lectures on Semi-Classical Analysis」において、講演者や参加若手研究者の旅費として使用した。また自身の海外渡航や毎年年度末に開催している国際研究集会「Himeji Conference on Partial Differential Equations」にて、参加希望の研究者への旅費補助として使用した。幸いなことに、昨年度は姫路市より後援補助を受けることができ、支出に下ぶれが生じた。姫路研究集会が年度末であったため、昨年度中での使用計画を修正できなかったが、次年度、立命館大学の幾何スタッフと微分方程式スタッフ合同で研究集会を開催することを予定しているため、平成28年度助成金と平成29年度助成金として合わせることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由に挙げたように、毎年開催している国際研究集会「Himeji Conference on Partial Differential Equations」のみならず、立命館大学にて開催予定である研究集会「微分方程式と幾何」にて、参加希望者の旅費の補助として運用する予定である。特に後者は、若手向けの勉強会的なプログラムを予定しており、若手の参加希望者への補助を重視する。 また、最終年度にあたる今年度は、いくつか同時並行して行っている共同研究について、成果を残すべく、自身や共同研究者の渡航費用として使用する。
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