研究課題/領域番号 |
15K17572
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
陳 逸昆 京都大学, 情報学研究科, 講師 (10748833)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 偏微分方程式 / 境界値問題 / Kinetic Theory / 特異性 |
研究実績の概要 |
境界を有する領域での気体分子運動論と、その数理モデルとして現れる Boltzmann 方程式の定常解との対応を明らかにすることを明らかにすることを本研究の目的としており、平成27年度は特に線型 Boltzmann 方程式の定常解に関する macroscopic な量の特異性に焦点を当てて研究に取り組んだ。 3次元空間における2枚の平行な平面の間で線型 Boltzmann 方程式を考え、その定常解の速度成分に関するモーメント量をとったとき、そのモーメント量の空間変数に関する導関数は「境界平面に近づくにつれ対数オーダーで増大する」という特異性を持つことが、台湾大学の夏俊雄氏との共同研究で明らかとなった。このモーメント量は、気体分子の密度や流速、温度等の物理量を表しており、この結果は境界付近での気体分子の挙動の特異性を示唆している。 また、microscopic な量である定常解自身については、先の設定の下で、境界平面上で速度成分に関する不連続性をもつことが知られていたが、京都大学の舟金仁志氏、高田滋氏、中華民国中央研究院数学研究所の劉太平氏との共同研究で、その特異性についてより詳しい情報を得ることに成功した。この結果は、平成28年度の研究テーマに掲げていた「平面境界を持つ領域での定常 Boltzmann 方程式の境界近傍での増大度に関する研究」に寄与するものであると考えられる。 以上2つの結果は、平成27年度中に論文の形で出版された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、平面境界をもつ非線型 Boltzmann 方程式の、定常解の macroscopic な量に関する特異性の研究に取り組む計画をしていた。特に非線型性が弱い場合についての解析に取り組む予定であったが、それは台湾大学の夏俊雄氏との共同研究により十分な成果を得たと考えている。よって、研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、平面境界を持つ領域での非線型 Boltzmann 方程式の定常解の、境界近傍での増大度に関する特異性の研究に従事する予定である。平成27年度の研究において、代表者は非線型 Boltzmann 方程式の定常解のモーメント量の、導関数の境界付近での漸近評価を得た。また先に述べた研究の過程で、代表者は既に非線型 Boltzmann 方程式の定常解の導関数について、境界近傍での増大に関する主要項および第2項を得ている。代表者は、この結果の延長として、非線型 Boltzmann 方程式の定常解の増大度を評価するのにふさわしいノルムを見つけ、非線型 Boltzmann 方程式の定常解の増大度を記述するのに最適な関数空間を決定する計画を立てている。経費の執行については、平成27年度に準じた研究連絡の他、ノートPCの購入を計画している。 また、今後は定常輸送方程式の係数決定逆問題に取り組むことも視野に入れている。定常輸送方程式は定常線型 Boltzmann 方程式同様、未知関数の方向微分と積分項を含む方程式であり、代表者が線型 Boltzmann 方程式で培った知識と技術を用いれば、定常輸送方程式の解の境界値の特異性を観測することで、領域内部での係数の不連続性を検知できると筆者は考えている。この問題は、ひかりトモグラフィと呼ばれる、非侵襲的な生体イメージング技術に応用される。散乱を考えないモデルでは、筆者の提案する方法で係数の不連続性を観測できることは明らかである。そこで、代表者はこの散乱の効果がこの方法に影響を与えるかどうか検証したい。代表者は線型 Boltzmann 方程式の研究結果から、散乱の効果は境界値の特異性に寄与しないと考えている。
|