本研究の目的は波束変換によって波面集合を特徴づけ,それを用いて双曲型偏微分方程式の解の波面集合の伝播の問題を調べることである.波面集合のアイディアは,ある点の周りに台を持つカットオフ関数をかけてからフーリエ変換し,フーリエ像の変数の増大度を調べることである.波束変換はフーリエ変換と似た変換であるが,もとの空間の変数とフーリエ像の変数を同時に扱うことができるため,波面集合の解析においてはフーリエ変換よりも優れた結果を導くことが期待される.本研究では次の結果が得られた. (1)波束変換による波面集合の特徴づけを得た.波束変換による波面集合の特徴づけに関する先行研究では,窓関数にいくつかの条件が仮定されていたが,その条件を取り去り,恒等的に0でない急減少関数を窓関数として波面集合を特徴づけることができた.また,ソボレフ型波面集合についても同様の結果を得ることができた. (2)変数係数の1階双曲型偏微分方程式の解の特異性伝播に関する問題.考える方程式を波束変換してから特性曲線の方法で解くことにより,波束変換による解の表示が得られる.この表示と上記の特徴づけを組合せて,変数係数の1階双曲型偏微分方程式の解のソボレフ型波面集合の伝播に関する定理の別証明を得た(結果自体は既知の結果であるが,ここで用いた手法は未解決問題にも適用可能であると考えられる). (3)線形高階分散型偏微分方程式の解の波束変換による表示を得た.また,その表示の応用としてモジュレーション空間上で,その解の評価を与えた.
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