研究実績の概要 |
[具体的内容]生物の「走化性」とは化学物質の濃度勾配に沿って生物が特定の方向に移動する性質であり, 細胞生物学や臨床病理学において重要な役割を果たしている. ケラー・シーゲル系は, この走化性を記述する数理モデルである. 2007年には流体の運動を記述するナヴィエ・ストークス方程式との系が提唱され, 現在においても活発に研究が進んでいる. 本年度はこれらの系を包括する「質量保存則をもつ放物型方程式(parabolic equations with divergence form)」に対する解の安定性について, 昨年度に引き続き研究を進めた. 具体的には昨年度得られた結果に対する仮定をより分かりやすいものに改定した. 本研究成果は, 横田智巳氏 (東京理科大学)との共同研究として論文にまとめている. 同研究成果は第713回 応用解析研究会 (2020年7月, 早稲田大学), 国際研究集会「The Mini International Workshop on Mathematical Analysis of Chemotaxis」(2021年3月, オンライン開催)において招待発表された. また, 日本数学会2020年度秋季総合分科会 (オンライン開催)でも報告している.国際研究集会での講演により, 解の収束のクラスに関して助言を得ることが出来たので今後考察していく予定である. [重要性]仮定をより分かりやすくしたことで本成果を適用できるか否かを簡単に判別できるようになった.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に続き, ケラー・シーゲル系に対して以下の研究を進めていく. 1.【時間無限大での極限への収束スピード】令和元年の研究では, 質量保存則をもつ一般の放物型方程式に対する解が定常解へ収束することが分かった.収束スピードはこれまでの様々な研究成果から指数減衰であると予想される. 2.【特異拡散項をもつ系の数学解析】拡散項が多孔質媒質方程式と同じで冪数が0以上1未満(Δu^m, 0<m<1)の場合には, X.Xu(2020)により新しい論文が発表されたが, 解の有界性までは得られていないのでアプローチしていきたい.
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