研究実績の概要 |
今年度の研究は, 弱い消散項を持つ定数係数の非線形偏微分方程式の各論が中心であった.(1)九州大学の川島修一氏と東北大学の前川泰則氏と共同で, 小さい初期値を持つ(可微分性損失型)双曲型Cahn-Hilliard方程式の解の漸近挙動に対しての考察を行った. 特に線形項と非線形項の効果が釣り合う臨界冪の非線形項に対して, その漸近形が非線形項の寄与が現れる自己相似解になることが明らかになった. 弱い消散項を持つ非線形梁方程式に対する時間大域適切性及びその大域解の最適な時間減衰評価を同じ関数空間で達成することを軸にして研究を行った(弱い消散項を持つ非線形梁方程式は非線形項の方が線形項よりも時間減衰が速いという知見がこれまでの研究で得られていた点に留意しておく).(2)これまで得られていた高次漸近展開の方法論及び基本解の線形評価を見直すことによって,高次展開が可能な解に対する時間大域適切性の成立する関数空間の同定ができた. 特に重み付きの関数空間においては線形構造から正則性損失が生じるが, 解の平滑化効果を利用すればそれが一部回避できることが分かった.(3)初期値を限定することによって, (その結果非線形項の時間減衰をさらに改善して)熱核による3次展開を達成した. この結果の有用性は, 非線形項の漸近形に対する寄与がより明確になった点と他の方程式の解の漸近挙動の違いが明確なものとなった点にある.
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