本研究課題は、非常に小さいサイズ(ナノのオーダ)の粒子が多数存在し、それらが互いに相互作用する状態において、粒子の状態やダイナミクスの制御のための理論を構築することが目的である。前年度には、粒子の数が比較的少なくかつ、粒子間の相互作用が線形で近似されるシンプルなモデルを用いて理論を展開してきた。最終年度である今年度は、実際に実験への適用を視野に入れたより複雑なモデルに対しての理論構築を行った。具体的には前年度に展開した理論を主に以下の3つの状況へ拡張した。(1)多粒子系(2)非線形系(3)ノイズを含んだ系。(1)については1次元空間における多粒子の分子動力学シミュレーションを行い前年度の理論がそのまま適用可能であることを示した。(2)については、粒子間相互作用が非線形の領域においても制御が可能となるように前年度の理論を拡張した。(3)については多粒子の分子動力学にノイズを加えた系に関して、ノイズによって引き起こされる拡散現象を制御する理論を構築した。以上の拡張は、前年度の理論を実験へ適用する際に必ず必要となる事柄であるので、実用に向けての重要な進展であると考えている。今現在、以上の結果を論文としてまとめ国際的な科学雑誌に投稿している。 本研究課題で構築した理論は非常に一般的なものなので、ノイズに晒されているシステム全般に適用可能である。例えば我々の体の細胞は外的なノイズに晒せれながらも何らかの意味で制御され情報処理を行っている。本研究課題で得た知見が、このような生命現象を理解するための手がかりとなると考えている。これは今後の研究課題としたい。
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