研究課題/領域番号 |
15K17585
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
國谷 紀良 神戸大学, システム情報学研究科, 講師 (60713013)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 感染症の数理モデル / 基本再生産数 / 年齢構造 / 空間構造 / 安定性解析 / スペクトル近似 / 力学系 |
研究実績の概要 |
感染症の流行動態を表す数理モデルの内、空間構造と年齢構造を含むモデルに焦点を置き、感染症の侵入時における流行規模の指標である基本再生産数Roの閾値的性質の解析を行った。(1) 年齢構造化SIR感染症モデルに対する基本再生産数Roの数値計算のために、年齢変数に関する半離散化系を利用する手法を提案し、その妥当性をスペクトル近似理論により証明した。(2) 性器ヘルペス感染症の数理モデルとして、各個体の性別と活動性に応じて区分される集団構造と、再発の影響を考慮できる年齢構造を含むモデルを構築し、その解析を行った。結果として、基本再生産数Roが1より大きければ感染症が定着する状況を意味する平衡解が大域的に漸近安定となることが証明された。またその結果を2001年から2014年のアメリカにおける疫学データに適用することで、性器ヘルペス感染症の基本再生産数Roは2から3の範囲にあるという推定結果を得た。さらにワクチン接種人口をモデルに導入することで、最適なワクチン配分方法に関する議論を行った。(3) 海外の研究者との共同研究として、様々な種類の年齢構造化感染症モデルに対する基本再生産数Roを導出し、Roが1より大きい場合に感染症が定着する状況を意味する非自明平衡解が大域的に漸近安定となることを、適切なリャプノフ関数を構築することにより証明した。(4) 方程式の構造の面から感染症モデルと関係のある体内の造血幹細胞の増殖モデルとして、空間構造と年齢構造を含む非線形反応拡散系を構築し、その定性的解析を行った。結果として、休止期にある細胞の根絶および定着のための各十分条件を導出し、定着する場合はホップ分岐による周期解が発生する可能性があることが数値計算により示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な種類の構造化感染症モデルの研究を通じて、基本再生産数Roの閾値的性質に関する諸結果を得ることが出来、今後の統合的な理論構築において有用となる解析手法が得られたと考えられるため。また、抽象的な理論のみでなく、実際の疫学データに基づく研究成果も得られており、今後の感染症制御に有用となる防疫策の議論のための研究の基盤が出来たと考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
個別の構造化感染症モデルに対する現在までの研究の蓄積をもとに、それらを包括する統合的な理論の構築を目指す。具体的に、これまでのモデルを特別な場合として含むような一般的な形状の非線形微分方程式系を考え、その力学系的性質を明らかにすることを目指す。このようなアプローチにより、個体群動態における感染という現象の本質を捉えるとともに、その被害を減らす上で最も有効となる防疫策の議論を行う。
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