平成 29 年度は「粗視化された細胞質の数理モデルの理論解析」を中心に進めた。粗視化細胞質モデルとして、15 種類のブラウン粒子 (マクロ分子) から構成される多分散性のコロイドモデルを用いた。主要な結果は以下の 2 点である。 ① まず、サイズが異なるブラウン粒子系 (多分散性のコロイドサスペンション) において、排除体積効果による拡散係数の低減を理論的に扱った (粒子間相互作用は剛体芯相互作用とした)。その結果、(全ブラウン粒子の) 体積分率に関して線形の理論を導出した (すなわち、拡散係数を体積分率の一次式で近似的に表わした。したがって、この理論は低密度状態に対して精密に成立する)。さらに、この理論を粗視化細胞質モデルに適用し、シミュレーション結果と比較した結果、高濃度状態まで比較的良く一致することが分かった。また、この線形理論に対して、ヒューリスティックな修正を提案した。この修正理論はより高濃度まで適応できることが分かった。 ② 排除体積効果に加えて、流体力学的相互作用を考慮した場合の理論を構築した。さらに、この理論を粗視化細胞質モデルに適応した。その結果、(GFP などのタンパク質分子に対して) 排除体積効果だけの場合よりも、拡散性の低減が著しいことを見出した。このような流体力学的相互作用の重要性は、数値シミュレーションでは既に予想されていたが、今回始めて理論的に確認できたことは重要な成果であると考えられる。また、拡散係数の低減への寄与として、次の 3 つの効果を具体的に導いた。すなわち、流体力学的相互作用の効果 (すなわち短時間拡散係数の低減の効果)、排除体積効果、濃度勾配の効果である。このうち、流体力学的相互作用の効果が最も大きいことが分かった。一方、排除体積効果の寄与は、(流体力学的相互作用が無い場合と比較して) 小さくなった。
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