研究実績の概要 |
望遠鏡やドームといった天文観測施設周辺で生じる乱流や気流の淀みは、空気の温度や密度分布のムラにより観測性能の悪化(波面の乱れ)を引き起こすことが知られている。そうした気流の影響を抑制するために、低速の風を構造物に均等に当て続けることが有効であると考えられている。本研究は、都市計画等の風工学分野において多数の実績を有する非定常数値風況解析ソフトウェア Airflow Analyst(R) (AFA) を観測的天文学に応用して、観測施設の風況を体系的に制御し、観測性能の安定的向上を図ることを目的としている。
平成28年度は、前年度に行った東京大学アタカマ天文台 (TAO) 6.5m望遠鏡を対象とする風況数値シミュレーション結果と建物形状等の最適化の検討結果について国際研究会において発表した (Konishi, M., et al. 2016, Proc. SPIE, 9906, 99062M)。 また、TAO 6.5m望遠鏡の建設地 (標高5,640mのチャナントール山山頂) において風速の高度分布を測定した。前年度に山麓で行った測定試験の成果を踏まえて、地表から鉛直方向に2m毎に風況計測器を3台設置し48時間の連続測定を行った結果、風向・風速と時刻の間に顕著な関係が見られた。これはこれまでに経験的・定性的に分かっていたことではあるが、精密な実測により風況数値シミュレーションとの比較およびそれによる建物構造へのフィードバック (風況制御) に向けて大きく前進した。 こうした精密な実測を望遠鏡建屋の周囲数か所において連続して行い、風況数値シミュレーションとの比較結果から望遠鏡建屋の換気窓を制御し風況を沈静化・安定化させることが出来ると期待される。
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