研究実績の概要 |
本研究は、「2つの分子雲同士の衝突による誘発的形成」をキーワードに、天文学最大の謎のひとつである「大質量星形成のメカニズム」の解明を目指すものである。本年度の成果は以下のようにまとめられる。 (1)もっとも著名なSpitzerバブルRCW120に対し、NANTEN2, ASTE, Mopraを用いた一酸化炭素分子COスペクトル観測を実施し、このSpitzerバブルの構造と、これが内包する大質量星が、2つのサイズの異なる分子雲が、衝突したことにより形成されたことを明らかにし、その基本的な分子雲衝突モデルを構築した (Torii et al. 2015, ApJ, 806, 7)。 (2)若い巨大星団であるRCW38に対する、NANTEN2, ASTE, Mopraを用いたCOスペクトル観測を実施、この星団もRCW120と同様に分子雲衝突で形成されたことを明らかにした (Fukui, Torii et al. 2016, ApJ, 820, 26)。RCW38の年齢はおよそ10万年と非常に少く、これにより衝突直後の分子ガスの分布、運動を克明に捉えることに成功した。 (3)大マゼラン銀河の巨大な星雲N159に対し、ALMAを用いたCOスペクトル観測を実施、この星雲に含まれる大質量星のひとつが、2つのフィラメント分子雲の衝突で形成されたことを明らかにした(Fukui, Torii et al. 2015, ApJ, 807L, 4)。 (4)分子雲衝突の数値計算を実施し、分子雲衝突の時間進化と予想される観測的特徴を示した (Haworth, Torii et al. 2015a, MNRAS, 450, 10, およびHaworth et al. 2015b, MNRAS, 454, 3049)。
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今後の研究の推進方策 |
(1)RCW120における研究を通じて得た知見を元に、ASTE, Mopra, 野辺山45m鏡、JCMTなどの電波望遠鏡を用いたSpizterバブルの分子雲データを詳細解析し、統計研究を行うことで、分子雲衝突の普遍的な進化モデルを構築する。分子雲データはすでに部分的には取得済みであり、今後さらに観測を広げると共に、すでに得たデータの解析を並行して進める。 (2)若い巨大星団に対する観測的研究のサンプルを増やす。RCW38研究から得られた知見を元に、より年老いた巨大星団における分子雲衝突シナリオを追求する。 (3)以上の(1)および(2)の結果を数値計算結果と比較し、衝突圧縮面における分子雲の分布、運動や、形成される大質量星のサイズ、分布に対し、物理的な裏付けを与える。 (3)以上を総合し、銀河系でよく知られた巨大で複雑な星雲(Orion分子雲、M17、W51, Cygnus-X等)に対する分子雲衝突による大質量星形成の可能性を追求し、「すべての大質量星は分子雲衝突で作られるか否か」の問いに対し答えを与える。
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