研究課題
その起源が未解明な銀河系外拡散ガンマ線の観測を目的とした、広視野MeVガンマ線望遠鏡の測定帯域を数MeVまで広げるべく、高エネルギー分解能なGAGGシンチレーターと低雑音・低消費電力な光検出器MPPCを組み合わせた、位置検出型シンチレーション検出器の開発を行った。MeVガンマ線望遠鏡に組み込む事を前提とするため、MPPCの電荷読み出し回路数を減らすべく、抵抗マトリックスを用いた電荷重心による位置検出を行い、5×5cmの領域を8×8セグメントに分割し、4端から読み出して電荷重心とエネルギーを取得する回路を設計・製作した。また、6.3mm角・2.3放射長の8×8ピクセルGAGGシンチレーターアレイを作成し、先のMPPCアレイと回路で測定した所、120keVから2.6MeVに渡ってガンマ線の位置・エネルギーを測定できる事を確認した。さらに、エネルギー分解能も従来から2倍近く向上し、662keVにおいて半値全幅で6.7%を達成している。一方で、シンチレーターの長さが長くなることで、ガンマ線の吸収位置の不定性が大きくなり、角度分解能が悪くなる可能性があったが、簡単な数値計算を行った所、その影響は現状から大きく変化しないことを確認した。平行して将来期待できる観測のシミュレーションも行った。数MeVまでのガンマ線が観測可能になれば、物質拡散のトレーサーとして期待される、銀河面に広がるAl-26からの1.8MeVのガンマ線放射の観測も期待できる。開発したGAGGシンチレーターを用いた広視野MeVガンマ線望遠鏡であれば、1.8MeVで2度程度のPoint Spread Functionが期待できると得られた。同時に200cm2の有効面積を実現すれば、衛星で1年間の観測でAl-26の詳細な分布が取得できるという計算結果が得られ、宇宙核物理学を大きく進展する期待ができるようになった。
2: おおむね順調に進展している
GAGGシンチレーターとMPPCを用いた高阻止能・低消費電力・高エネルギー分解能な位置検出型シンチレーション検出器を実現した。MPPCの持つ検出器容量が予想よりも大きく、信号波形を大きく鈍らせてしまうという事態が発生したが、抵抗マトリックスの変更により問題を解決する事に成功しており、研究の進行に大きな影響は出ていない。また計画では3放射長の厚みとしていたが、製作上の問題で2.3放射長となっていること以外は目標を達成している。MPPCの強い温度依存性を吸収する為の供給電圧の制御やMeVガンマ線望遠鏡への組み込みに対応したデジタル部の開発は、平成28年度に行っていく。その一方で、ガス飛跡検出器のデータ収集システムの改修は始めており、上記デジタル部の開発が済み次第、組み込めるよう準備を進めている。検出器のシミュレーションについては、フルシミュレーターは未だ構築中であるものの、観測を簡易に模擬できるものを作成し、これによりPSFの評価や期待できる観測などの評価を始めることが可能となった。以上のように、全体としても大きな遅れは無く、概ね順調と言える。
開発する電子飛跡検出型MeVガンマ線コンプトン望遠鏡の測定エネルギー帯域及びエネルギー分解能はシンチレーション検出器の性能で大きく制限される。これを改善するためにGAGGシンチレーション検出器を開発を進めており、ガンマ線望遠鏡に必要な性能を実現可能であることを証明できた。このため、このGAGGシンチレーション検出器をガンマ線望遠鏡データ収集システムに組み込み、MPPCの利得の温度依存性補償を目的とする電源制御も行う、デジタル部の開発を行っていく。合わせて、ガス飛跡検出器のデータ収集システムの改修も進め、ガンマ線望遠鏡としての角度分解能・有効面積の向上、およびシステムの省電力化を行う。これらハードウェアの開発と平行して、フルシミュレーターの開発も行う。これは、ガンマ線以外の宇宙線や大気からの二次粒子による雑音が、実際の気球実験においてどの程度観測を阻害するかの検証に必須のものであり、構築後、フルシミュレーターによる雑音シミュレーションを行っていく。また、他波長観測による既知の天体に対して典型的なスペクトルを仮定し、シミュレーターから得られる検出器性能を用いて、期待されるMeVガンマ線観測がどの程度の感度であるか、また系外拡散ガンマ線の角度パワースペクトルがどの程度有意に観測可能であるか、といった現実的な見積りを行いその精度を上げていき、長時間気球実験の提案につなげる。
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