研究課題
数百keVから数十MeVにかけてのMeVガンマ線領域において、全天に一様に広がる系外拡散ガンマ線の起源は、未だ解明されていない。この系外拡散ガンマ線の起源に迫るための全天探査型MeVガンマ線望遠鏡の開発を行った。今年度は、将来的に望遠鏡の有効面積を拡大した際に予想される不感時間の増大に対応するべく、MeVガンマ線望遠鏡のデータ収集システムの動作モードを、条件がそろった際に初めてトリガーを生成するコモンストップへと変更し、ネットワークでデータ転送を行うシステムへと大きく変更した。ガス飛跡検出器の読み出し回路は、基板のFPGAロジックを変更し、高速データ収集システムへと移行した。シンチレーション部の読み出しは、従来最大波高値を保持するものであったが、2.5MHzで波形を記録するものへ変更し、波形フィットによって信号の時刻と波高値を得る方式へと変更した。これらを用いた10cm角MeVガンマ線望遠鏡は、数kHzのデータ取得でも20%程度の不感時間となり、数百Hzで50%程度の不感時間だった従来システムから大きく改善した。この新システムでもガンマ線画像とスペクトルが取得できることも確認している。シンチレーションカメラについては、昨年度GAGGシンチレータとMPPCアレイで高エネルギー分解能なカメラを構築できることを確認したが、GAGGシンチレータは未だ高価な結晶であるため、比較的入手しやすいGSOシンチレータとMPPCアレイの組み合わせを試験した。これにより、半値全幅8%のエネルギー分解能を達成した。2月末には、京都大学で第1回MeVガンマ線天文学研究会を主催した。24講演・約50名の参加があり、MeVガンマ線観測の展望と期待される科学について広く議論を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、MPPC読み出しのデジタル部の開発とそのMeVガンマ線望遠鏡への組みこみ・シミュレータの開発が今年度の予定であった。このうち、今年度はデジタル部の開発・MeVガンマ線望遠鏡への組み込みは、計画通り実行できた。MPPC回路については、読み出し雑音が若干多く改善の余地があるが、PMTを用いた回路と併用して原理的な検証は進んでおり、小型MeVガンマ線望遠鏡として、ガンマ線観測が行えるところまで確認できている。シミュレータ開発に関しては、回路応答まで考慮したフルシミュレータの開発を計画していた。Geatn4を用いた物理計算部については、将来観測で使用する中型及び大型のガンマ線望遠鏡のシミュレータを構築した。回路応答に関しては完成できていない為、簡易的な検出器応答モデルを構築し、物理計算部と合わせて将来計画の検出器の検討を行っている。回路応答部は、計算に時間を要する為、検証に時間がかかっているのが原因であり、これを除いてはおおむね順調と考えている。
今年度構築した高速データ収集システムによるMeVガンマ線望遠鏡の検出効率・角度分解能・エネルギー分解能などの定量評価をおこなう。この小型システムによる検証は、将来の科学観測で使用する検出器の原型となるものであり、その性能評価は非常に重要である。また、ガス飛跡検出器で使用するガスは、従来アルゴンガスを用いてきたが、MeVガンマ線望遠鏡では光電効果を抑えてコンプトン散乱優位なるような、原子番号の小さい分子ガスが適しているため、CF4を初めとするガスでの動作を検討し。最適なガスの検討を行う。シミュレータの構築に関しては、回路応答モデルの検証を進め、フルシミュレータの構築を進める。これを用いて実証機の性能の妥当性や雑音量の検討を行い、将来観測における予想検出感度を導出する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件)
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