研究実績の概要 |
本研究は, 熱, 運動量, 電流の拡散・散逸過程を陽に考慮したの3次元磁気流体方程式をスーパーコンピュータを使って数値的に解くことで,「太陽内部熱対流によるダイナモ機構」を物理定量的に明らかにすることを目的としている。平成27年度に行ったボックスモデルを使った対流ダイナモの数値モデリング研究で, 太陽内部のような強密度成層大気中では, ダイナモ生成磁束がガス密度の低い対流層表面で組織化し, 自発的に黒点状の収束磁場構造へと進化することを明らかにした(Masada & Sano 2016, ApJL, 822, 2, L22)。 申請当初, ボックスモデルでは黒点状磁場構造は形成されないと見込んでおり, 平成28年度(計画二年目)はボックスモデルを全球モデルに拡張する計画を立てていたが, 予想に反し, ボックスモデルでも黒点状磁場構造が形成されることがわかったため, 平成28年度は研究計画を修正し, 対流層表面での磁場の自発的組織化のメカニズムについて詳しい解析を行った。その結果, 以下の3点を明らかにした: 1. 乱流パンピングの深さ方向の勾配に起因した新しい不安定性(=乱流パンピング不安定性)が存在すること 2. 対流層表面で自発的に磁場が収束する原因が, この「乱流パンピング不安定性」にあること 3. 現実の太陽内部構造下では, 乱流パンピング不安定性に起因して, 太陽表層にO(1)万km の空間スケールとO(1000)Gの磁束密度を持つ, 黒点状の局在化した磁場構造が形成されること これらの成果に関しては, 日本天文学会2017年春季年会(九州大学)ですでに報告済みであり(M13a), 現在論文を執筆している段階である(Masada & Sano 2017 in prep.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では, 平成28年度は「太陽全球磁気流体計算モデルで黒点形成領域を特定すること」を研究目標に据えていた。しかし, 平成27年度の研究で得た結果が, 「良い意味で」研究実施前には全く予測できていなかったこと(ボックスモデルでも, 強密度成層下では, ダイナモ生成磁束が対流層表面で組織化し, 自発的に黒点状の収束磁場構造へと進化する)であったため, 今年度は計画を一部修正し, その物理メカニズムの解明に注力した。平成28年度の研究で, 対流層表面での磁場の組織化の原因をおおよそ理解できたことは, 本計画研究全体にとって極めてポジティブな進展である。思いがけない成果が得られた一方で, ボックスモデルから太陽全球モデルに計算モデルを拡張して研究を進めることができなかったことは反省点である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成29年度は, 「太陽全球磁気流体計算モデルで黒点形成を再現すること」を目標に研究を進める。平成28年度までのボックスモデルを使った研究で, すでに黒点形成(磁場の自発的収束・組織化)の鍵となる物理機構についての理解は大きく進んでおり, 全球計算を行うことで, シミュレーションで形成される磁場構造のサイズや形状, 磁場強度などを観測結果と直接比較できると期待している。我々が見出した「乱流パンピング不安定性」は密度勾配の鋭さに依存するため, 密度変化の激しい対流層最上部を高分解して解く必要があり, 全球を素直に解くシミュレーションでは解像度の不足が懸念される。よって, 球ジオメトリを維持したまま高解像度化を実現できるspherical-wedge (Kapyla et al. 2010) を計算領域として採用することも検討する。spherical-wedgeとfull-sphereではダイナモに関する計算結果はほとんど変わらないことが示唆されているが (Kapyla et al. 2012), 幾つかの追検証を行い, その一致を我々自ら確認した上で, spherical-wedgeに強密度成層大気モデルを実装し, 球殻系でのダイナモとダイナモ生成磁場の組織化を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年7月31日から8月2日の日程でCOSPAR 2016 (Istanbul, Turkey, The 41th COSPAR Scientific Assembly) に参加し, 招待講演を行う予定(https://www.cospar-assembly.org/admin/session_cospar.php?session=596)だっため, 年度計画ではその参加旅費を計上していた. しかし, イスタンブールで起きたテロの影響で国際会議自体が中止になったため, その分の旅費が未使用になり次年度使用額が生じた。
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