研究課題
本研究はセンチ波メートル波の大型計画SKAに向けて、宇宙磁場の研究を進めるものである。特に宇宙大規模構造の磁場に着目し、その発見にむけた偏波観測シミュレータの開発を進める。当該年度においては、介在銀河と偏波源の理論モデルを完成させシミュレータへ実装を進める予定であった。上半期では、前年度に新展開した高速電波バーストを使った宇宙大規模構造の研究をさらに進めた。具体的にはSZ効果と組み合わせて銀河団外縁部分のプラズマの密度や温度分布を調べることができることを示し、その理論予測を得ることを達成した。FRBを本研究が位置付ける「偏波源」となり得る点を明らかにしたことには大きな意義がある。高速電波バーストは突発的に空間的にランダムに発生する点源でモデル化できるだろう。研究成果は共著論文として2017年1月にApJ誌に掲載された。下半期は、介在銀河のモデル化について、特に空間分解能を下回る範囲で発生する偏波解消をどのようにモデル化できるかについて研究を進めた。研究の結果、いくつかの評価法・近似式を見出すことができた。シミュレーションと観測を繋ぐ大きな前進といえる。現在、研究成果は共著論文として投稿中である。さらに、来年度の計画を先取りする形で、ファラデートモグラフィーの技術開発も進めた。天の川銀河や近傍銀河の大局磁場と局所磁場の効果をトモグラフィーでどのように切り分けるかを提案した。これも大きな成果といえる。研究成果は共著論文として投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
当該年度では、前年度より持ち越しとなっていた介在銀河のモデル化を進める予定であった。そして当初の計画である偏波源の理論モデルを完成させシミュレータへ実装を進める予定であった。また最終年度の観測データとの比較に向けて、観測提案をする必要があった。介在銀河の研究は進捗した。具体的には偏波解消の評価法・近似式を見出した。しかしながら、シミュレータに実装するまでには至っていないので、次年度にこれを考慮する。介在銀河の研究で世界をリードするJamie Farnes氏をオランダから1週間招聘し、モデル化について集中的な議論を果たした。介在銀河のモデルを使った研究は、銀河円盤の磁場の宇宙論的な成長を探る重要な意義があることを理解した。偏波源のモデル化は研究環境が変化しつつある。基本的にクェーサーはほぼ点源の扱いで説明がつきそうなことが広帯域な偏波観測からわかりつつあり、高速電波バーストも今のところ点源として扱って支障ない。ゆえに偏波源の高度なモデル化はむしろ動機が薄れつつある。むしろ介在銀河の偏波解消の特性から素性のよい(点源の)偏波源だけを集める方法が研究達成に近いのではと感じている状況である。観測提案についてはASKAP-POSSUMプロジェクト内の初期科学運用に関する観測提案の準備を行い提出を果たした。残念ながら提案した銀局方向(理想的な観測領域)は優先目標視野には選ばれなかったが、観測戦略検討チームに招待され、相乗り観測などの可能性の検討を始めている。銀局方向の重要性は観測メンバーのよく知るところであるので、引き続き観測の実施を求めている状況である。以上を総合すると、研究は引き続き順調に進展しているといえるだろう。
当初の2017年度の予定は、ファラデートモグラフィー技術の適用と、SKAの豪州試験機ASKAPからの初期科学運用データを使った検証であった。まず残念ながらASKAPの計画が遅延したために、POSSUMの初期科学運用のデータは2017年度の末に得られる見込みとなった。ゆえに観測データとシミュレータとの比較は達成できない。そこでファラデートモグラフィー技術のさらなる開発に注視しつつ、前年度から持ち越しとなっているシミュレータに盛り込む介在銀河のモデル化を確実に達成することを目指す。ファラデートモグラフィーでは、スパースモデリング技法をファラデートモグラフィーに応用できることがわかりつつあるので、この方法で宇宙大規模構造の磁場を検出できないかの検討を行うことにする。介在銀河のモデル化については、ここまでの研究進捗を踏まえてコードを完成させる。そして様々なパラメータでのモンテカルロ計算を実施し、偏波解消の特性から介在銀河の磁場の性質についての理解が得られないか、あるいは介在銀河を含む視線をどうやって選別できるのかについて研究を進める。シミュレータの出力にファラデートモグラフィーを適用する準備も始める。プログラムの雛形はあるのでそれを活用する。シミュレータプログラム全体の可用性や判読性の整備も合わせて進める。得られる成果は欧文査読付き論文に投稿し、国内外の研究会にて成果発表する。
海外研究者の招聘に係る為替変動分。
研究会参加のための旅費として使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件)
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