研究課題/領域番号 |
15K17620
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
西塚 直人 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所宇宙環境研究室, 研究員 (10578933)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 太陽フレア / 宇宙天気 / ベクトル磁場 / 機械学習 / 画像検出 / ビッグデータ / SDO衛星 / 予測 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、約30万枚の太陽観測画像データと機械学習を用いた太陽フレア予測モデルの開発に成功した。太陽観測データは2010-2015年の6年間にSDO衛星(NASA)によって観測された太陽全面多波長データを用い、視線方向磁場、ベクトル磁場、彩層発光画像などから、太陽活動領域(黒点)の特徴量65個を抽出した。また3つの異なる機械学習アルゴリズムを独立に使用することで、各モデルの予測性能を比較し、どの機械学習がフレア予測問題に適しているのかを調べた。機械学習にはサポートベクターマシン(SVM)、k近傍法(k-NN)、アンサンブル学習(ERT)を用いた。この結果をTSSというスキルスコアを用いて評価すると、どのモデルを用いても従来の人手による精度(~0.5)を超える0.8以上の予測精度を達成することに成功した。さらに今回の評価手法では、k近傍法が一番良い予測精度を出す結果を得た。 本研究成果は科学論文誌アストロフィジカル・ジャーナル(Astrophysical Journal)に2017年1月に掲載され、同時にプレスリリースを行った。日本天文学会や日本地球惑星科学連合大会(JpGU)、宇宙環境シンポジウム、太陽研連シンポジウム、宇宙科学情報解析シンポジウムといった国内学会・シンポジウムにて口頭発表した他、Hinode-10、AOSWA-4、PSTEP-2といった国際会議でも口頭・ポスターにて発表を行った。プレスリリースを行った結果、新聞/Web記事等でも複数取り上げられ、また講演会依頼や雑誌記事依頼もあり、研究成果アピールにも積極的に取り組んでいる。 さらに現在は、より予報運用に近い形での予測精度を向上させるために、新たな機械学習アルゴリズム(ディープラーニング等)を用いた予測モデル開発と、時系列交差検証による評価手法の検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、平成28年度は(I)画像検出による浮上磁場の直接検出、および(II)類似画像検索によるフレア前兆磁場構造の類似構造の検索、という2つの予測方法の検討と、手動解析から自動化への検討を行い、そのための統計データベース作成を計画していた。さらに平成29年度に、各状態におけるフレア発生確率の統計データベース化を予定していた。 現状は、機械学習専門家との連携研究が非常に上手く進み、予測モデル開発と特徴量(統計)データベース作成と、平成28年度と平成29年度前半に予定していたことを達成することができた。また論文出版も行い、当初の計画よりも速いペースで優れたモデル開発を行うことに成功している。本機械学習で用いたk近傍法は、類似画像検索でも用いられる手法である。また抽出した特徴量には磁気中性線検出や磁場の時間変化量を含み、当初計画していた浮上磁場検出とも関連している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、平成29年度に画像認識による自動もしくは半自動の太陽フレア予測手法の検証を行うことを予定していたが、そのプロトタイプの手法開発は既に完了した。ただし、予報運用に適した世界標準の太陽フレア予測モデルの評価手法が確立していない問題があることがわかった。そのため、平成29年度は新たにこの世界標準の評価手法検討と、予報運用に則した条件下でも十分な予報精度が得られるよう、さらなるモデル改良による精度向上を目指して再開発を行う。 具体的には、今まで試した3つの機械学習の他、ブースティング手法(Extra Grandient Booster, Gradient Boosted Trees)やディープラーニング手法(Deep Neural Network)を用いた回帰的な予測など新手法を試すことで予測精度向上を図る。また、時系列交差検証を行うことで、予報運用に近い形での予測精度検証を試みる。 さらに、これらの予測モデルをもとに実際にリアルタイム太陽観測データを用いながら予報会議を模擬して実証試験を行う。ある一定期間以上の間試行し、自動データ転送や自動検出が正常に動作するか、さらに予報結果がどれだけ適切か、従来モデルの予報結果に比べてどうであるかを比較検討する。またNICTサイエンスクラウドのような大容量データバンクとの統合を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に購入した観測データ保存HDにて、論文を執筆するための解析保存環境としては十分であったため平成28年度は物品の購入を見送った。平成29年度にリアルタイム運用化、実利用化に向けた準備を行うため、それらに予算をまわすことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に太陽フレア予測モデルのリアルタイム運用化、実利用化に向けた準備と実証実験を予定している。それに向けてさらに必要になるだろうデータ保存環境や解析環境を構築するための物品等の購入に使用する。
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